歌声







「世界が終わっても〜またあなたと出会う〜〜ラララ愛の軌跡を繰り返す〜」
マリナが、ティエリアと一緒に歌っている。
刹那は、その歌声に聞きほれる。
マリナのソプラノをメインとして、コーラスのようにティエリアが歌っている。
とても綺麗な歌声。

世界に響くよ、きっと。

ティエリアが無料で自分の歌声をデータとしてまとめたものは、驚くほどのアクセスがあり、それをまねしてマリナも自分の歌声をデータとしてまとめた。
ティエリアには及ばないが、そちらもアクセスが凄い。

二人は、天性の歌姫だ。
時代が違っていれば、歌姫としてもてはやされていただろう。

「あ、刹那」
マリナが、帰ってきた刹那に気づいて、近寄ってくる。

「マリナの唄も綺麗だな」
「そんな。ティエリアさんに比べたら・・・」
マリナは頬を染めた。

「刹那、マリナ、メロンを切る。食べるか?」
台所から、唄をうたいながら、ダン、ダンと包丁をすごい音でふるうティエリアの声が聞こえてくる。
「ああ、食べる」
「私も食べるわ」

ティエリアは、マリナと同じで料理が得意ではない。他の家事は見事にできるのだが、料理の腕だけは壊滅的であった。

半分にきられためろんと、それをさらに半分にきったメロンがあった。
ティエリアは、無言で半分に切られたメロンをとる。
だって、メロンはティエリアの大好物なんだから。
刹那もマリナも、スプーンを子供のようにくわえたティエリアに笑い声をあげる。明るい、家族の時間。

「ティエリア・・・・たねを、とってやろう」
刹那が、種をそのまま食べるティエリアに苦笑して、綺麗に種をとってやった。
「ティエリアさんと刹那、まるで兄弟ね」

「そうだろうか?」
ティエリアは、バレッタで髪をとめていた。もう大分長くなった。

「ティエリア、髪くくってやる」
刹那が、髪ゴムを取り出す。

「ん」
姿勢だけで、どうぞと示すティエリア。
ブラシがなくとも、さらさらで綺麗なティエリアの髪は素直に一つにまとめれたが、三つ編みにしてやった。

「まぁ、かわいらしい」
「僕は、かわいいのではなく!」
「はいはい、かっこいい、ですね」
「そうだ」

ジャボテンダー抱き枕を抱きしめながら、メロンを食べる姿のどこがかっこいいのか分からないのだが、本人曰くかっこいいのだそうだ。

「次世代のバーチャル装置につけるナビゲーションAIを開発中だ・・・・名前は、何がいいだろう」
「あら、名づけてもいいのかしら?」
「僕が名づけると、皆天使や神話の名前になると・・・ああ、アダムとエヴァにしよう。オフェンシングAIはカイン。ディフェンシングAIはアベル。全てを統率するメインAIは、ヤハウェ・・・・完璧だ」
「本当に、神話とかになってしまってますね」
「変だろうか?」
「いいえ。綺麗な響きだし、宗教なんて関係ないでしょうからいいんじゃないですか?」
「ティエリア、頬にメロンの種がついている」
刹那がとって、ぽいっとゴミ箱に捨てる。

マリナは、そんな刹那とティエリアを暖かく見守っている。
ティエリアの仕事は、プログラミングが主で、その給料を見たマリナは驚きにしばらく口が聞けなかったほどだ。AIを独自に開発できるティエリアは、どこの会社からでも声がかかってくる。そんな勧誘の電話をしつこいと一蹴するティエリア。どんなに憧れても、その会社に入れない人間がほとんどな中、IQ180をこえるティエリアは独自にAIを開発し、ある会社と携帯して次世代バーチャルシステムを開発中だ。ほとんど家で仕事をしており、CB機関に顔を出すこともあれば、大学で教鞭をとることもあれば、歌声をアルバムとしてスタジオで収録したり・・・本当に、ひっぱりだこだ。

変わったと、刹那も思う。

無理をしている、とも見えるけれど。

「ああ、すまないが明日は東京大学で教鞭をとることになっている。夕食は、いらない」

「東京なら、遠くないだろうに」
刹那とマリナとティエリアは、日本の東京に住んでいる。
「いろいろ、うるさいんだよ。僕が作ったAIの特許権が欲しい連中がうじゃうじゃいてね」
「大変ですね」
マリナは、お茶をすすっている。

「刹那はいいな。CB機関で花の栽培だものな、仕事」
うっと、刹那が気にしていることを平気でティエリアはいってのける。
刹那とティエリアの仲だから、できることだ。
「俺はガンダムだ」
「ガンダムといいながら、花を育てているのだから、最近のガンダムも穏やかになったものだ」
ティエリアも、お茶をすする。

「ガンダム・・・・次の花は、ミス・ガンダムという名前にしようと皆にいったら、全員に首を横に振られた」
「それはな」
「無理ね」
ガンダムアホは、まだ治っていない刹那であった。

ティエリアとマリナと刹那は、穏やかに家族として東京で暮らし続けていく。