「アニュー」 アニューが世界から消えてしまった。死んでしまった。 刹那が、ライルのかわりに引き金をひいた。 刹那は無言でライルに殴られまくっていた。そして、ライルは魂の慟哭で叫んだ。 「アニュー、愛している」と。 ティエリアは、その日の夜、ライルの部屋にきていた。 「アニュー、愛してたぜ・・・なぁ、なんでこんなことになっちまったんだろうな」 ライルは、パソコンでアニューと一緒にうつった写真のデータを懐かしそうに見ていた。 ああ。私と同じ結末を、ライルにも与えるなんて、神はなんて残酷なのだろうか。 せめて、彼らの愛の結末は、幸福で終わって欲しかった。だが、イノベイターと人間の愛は、かなわぬものなのだろうか。彼らは、本当に心から愛し合っていたのに。 「アニュー、愛しているよ」 ライルのエメラルドの瞳から、途切れもなく涙があふれていた。 ライルは、本当はとても強いのに、涙を流さずにいられないくらいに、アニューを愛していた。 「ティエ、リア?」 ティエリアは、無言でライルを抱き寄せると、一緒にベッドに横になった。 「爪を噛んでは・・・いけない」 ティエリアが、血を流している手を包み込む。 「なぁ。なんで、アニューが死ぬ必要があったんだろうな?」 「彼女は・・・イノベイターだった。でも、あなたを愛していた。同じイノベイターであった私には分かった。いつか、こんな日がくるのではないかと。でも、その結末は私のように愛しいニールを失うのではなく、試練を、運命を乗り越えて、あなたはアニューを取り戻すのだと思っていた。そう思いたかった」 ライルの茶色の髪を、ゆっくりと撫でる。 「取り戻せると、思っていた。アニューは、俺の言葉に答えて、俺のほうにコックピットから出て・・それを、刹那が・・・・」 「刹那は、あなたのかわりに引き金をひいた。どうか、憎んでやれ」 「ティエリア?お前のことだから、刹那を責めるなというのかと思った」 「いいや。刹那は、全てを分かっていて引き金をひいた。あなたのかわりに。だから、アニューを殺したのは刹那だ。憎んで憎んでやれ。そうしないと、刹那の行為が全て無駄になる。そして、生きろ・・・・」 「なぁ。ティエリアが、兄さんを失った時の気持ちが、いまだと痛いほどによくわかるよ」 「すきなだけ、なくといい。あなたは、大人だから、年長者だから、涙を流してはいけないとか、そんなことはない。私もアニューがすきだった」 ライルの手には、ブルーサファイアの忘れな草の髪飾りがあった。 愛しいアニューが残していったもの。 「アニュー・・・・」 ライルは、ティエリアの体を抱きしめて、泣いた。 ティエリアは、そんなライルを包み込むように、優しく背中をなでて、一緒に泣いた。 「分かってたんだ・・・アニューが・・・・最後、コックピットから出ようとして、中にひっこんだんだ。俺は・・・でも、そのままアニューの殺されてもいいと思った。愛しているから」 「だから、刹那が代わりに引き金をひいた」 「でも、俺は刹那を許せない」 「それでいい・・・刹那も、許してもらおうと思っていないはずだ」 「もう一度、俺の女にするって叫んで、アニューは涙を零しながら・・・ゆっくりコックピットを出て、俺のほうに・・・・でも、その瞳はイノベイターの証である金色に光っていて・・・でも、もうそのままと・・・」 ライルは、一生分の涙を零す。 ティエリアも、同じように涙を零す。 「アニュー・・・ダブルオーライザーとすれ違ったとき、アニューが傍にいた。彼女の心に触れ合えた。イノベイターとして、命をうけて嬉しかったと。俺と出会えることができたから・・・笑顔で・・・最後は、笑顔で・・・あんな綺麗な笑顔、見たことがねぇ」 ライルは、泣き疲れて眠ってしまった。 ティエリアは、聖母マリアのように、ただ静かに涙を零し、ライルを抱きしめるのであった。 |