翼を生やした天使が目の前にいた。 「あなたを連れにきました」 「ああ・・・・やっと、会えたね、アニュー」 ライルは、自分の意思では動かなくなった手を、それでも精一杯伸ばす。 もう、下半身麻痺になって十年になる。十分に生きた。 愛しているという女性と出会い、家族を持った。 3人の息子と娘に恵まれ、孫もできた。 子供たちにせがまれるように、ライルはいつもガンダムで戦った時のことを語った。 子供も孫も、ライルがダイスキだった。 電動車椅子でガーと、カーペットの上を走る。 「やっと・・・これで、あなたを連れて行ける」 アニューは、綺麗な涙を零して、ライルに抱きついた。 「ははは。こんなよぼよぼのおじいさんになってしまったよ」 「ライルはいつでも素敵よ。どんな姿になったって」 アニューの手が伸びる。 ふわりと、体から魂が浮かんだ。 若い、20代の肉体に、ライルは驚く。 「あれま・・・・やべぇ、孫にこの後会う約束してたのに」 「もう、時間切れ。連れて行くわ。一緒にきてくれるよね?」 「何処にでも。結婚した俺を憎んでいるか?」 「いいえ。愛は、いろんな形があるから。あなたが・・・私の名前を口にしてくれることは、まだ私を愛してくれている証拠でしょう?」 「まいったな・・・」 ライルは、光の結晶をまといながら、天使の姿のアニューを抱き寄せる。 「私、転生の環に乗らずに、ずっと待っていたの。あなたの魂と一緒に転生できる時を」 「そっか・・・・」 アニューは、最期見た微笑と同じ綺麗な微笑みを零す。 純白の翼が舞う。 それは、CBもなくなった遠い未来の冬のある日の、ある住宅での出来事。 「おじいちゃん、おじいちゃん・・・・おじいちゃん、眠ってるの?ママー、おじいちゃんが起きないの」 「あら・・・お父さん、とても幸せそうに眠ってるわね。もう少し、このままにしておいてあげましょう」 「せっかく、ガンダムの話が聞けると思ったのに」 子供の声が聞こえる。 ライルは、アニューと一緒に天に昇る。 ゆっくりと、ゆっくりと。 もう、邪魔する者は誰もいない。 エデンの泉に、二人の男女がいつもいるという。 その深い愛に泣いた天使が、泉を作っていつまでも恋人同士が裂かれることがないように、エデンへの扉を開けてくれた。 もう、二人は離れない。 ライルとアニューという名の魂は、しばらくの間転生の環に入ることなく、エデンの泉で寄り添っていた。 |