カインとアベル・・・・アダムとイヴが、失楽園の後に生まれた兄弟。血が繋がっていながら、カインはアベルを殺した。ヤハウェにアベルの行方を問われたカインは「知りません。私は永遠に弟の監視者なのですか?」と答えた。これが人間の吐いた最初の嘘だという。 カインとアベルはアダムとイヴの間にできた兄弟。イヴはエヴァとも呼ばれる。 「カインが犯した罪は、弟殺し・・・・・」 ヴェーダから教えられた情報である。もはや、ティエリアはヴェーダとリンクできない。 ヴェーダを失ったとき、ティエリアは封印されていた記憶を少しづつ取り戻していた。 カナリアが、もっていってくれた辛い記憶。 辛い記憶は、僕が全部持っていくから。 どうか、僕のことを忘れないで。 僕はカナリア。 籠の中で歌う鳥。あなただけのために歌うカナリア。 ティエリアのかわりに辛い思いをして消えたカナリア。 「ティエリア?」 システムルームから出てきたところを、ロックオンに見つかった。 ティエリアは身を振るわせた。 シルテムルームに入って、失った記憶は鮮明なものになった。 「こないで!いやだ、いやだ、いやだ!!!」 「おい、しっかりしろ、ティエリア」 「僕はヴェーダに拒否された!何もかも思い出したんだ!僕はオランダの娼館で体を無理やり売らされていた。僕は穢れている。あなたの傍にいられない」 いくつもの涙が、ティエリアの石榴の瞳に浮かんでは、流れていく。 もうおしまいだ。 純粋な愛も、これできっと壊れてしまう。 ああ。 助けて。 助けて・・・・・手を伸ばすと、その手をぎゅっと握ってくれる者が、ティエリアの中にいた。 「俺は、どんなティエリアでも愛している」 「うう・・・・ああああ」 ティエリアは泣き崩れた。 「おやすみなさい、ティエリア」 「ティエリア?」 ロックオンは、放心したように地面に蹲るティエリアを抱きしめる。 ティエリアがどんなになっても、どんなことになっても、ロックオンはティエリアを愛するだろう。 ティエリアは、涙を流しながら、ロックオンに抱きついた。 辛い記憶を思い出したのなら、普通のティエリアなら錯乱してもおかしくないはずなのに、ティエリアは泣いた後、氷の花のような微笑を零した。 「ティエリア?」 壊れてしまったのかと、とてつもない恐怖にかられるロックオンを安心させるように、ティエリアはロックオンの手を握り締める。 「ティエリアはね、今、辛くて眠ってるの。ティエリアはヴェーダを失って、心のよりどころをなくしてしまった。僕がもっていった記憶を思い出してしまった。でも、恐れないで。ティエリアは、カナリアが守るから。ほんのしばらくの間、眠りについただけ。消えたわけじゃないから。その間、カナリアがティエリアを守るよ」 にこりと、微笑む笑顔は本当に満開の花のようで、こんな笑顔をする人間は一人しか知らない。 「・・・・・・・・カナリア?」 「うん、そうなの。覚えててくれたんだ」 嬉しそうに、ティエリアはロックオンを見て、ただ深く深く微笑むのであった。 NEXT |