メリークリスマスU









「メリークリスマス、アレルヤ」
「メリークリスマス、マリー」

アレルヤとマリーは、私服でドイツの町を歩いた。
町の中心地には、巨大なクリスマスツリーがあり、飾りつけも綺麗にされ、巨額の金を投じられて、イルミネーションが瞬いている。

日も暮れた、夜中。
人通りは少ない。
アレルヤとマリーは、そのイルミネーションを見上げていた。

「綺麗ね」
「うん。綺麗だね」

空の星にも負けないくらい、イルミネーションの輝きは幻想的であった。
クリスマスツリーはその巨大な一本だけでなく、町の街路樹の全てにイルミネーションが施されている。
二人、手を繋いで歩く。
どの店ももう閉まっていたし、食事はもう終えたので問題はない。
後は、予約したホテルに泊まるだけだ。

息を吐くと、白く染まった。
ピンと張り詰めたような、冷たい空気。
吹く風は、余計に寒さを助長する。
防寒服に身を包み、アレルヤとマリーは、イルミネーションが幻想的な町を二人で歩いた。
やがて、公園にたどり着き、ベンチに座った。

「寒くない?」
「寒いけど、平気よ。アレルヤが隣にいるんですもの」
マリーが、微笑んだ。
吐く息が、白い。

ふわり。ふわり。

「見て、アレルヤ、雪よ」
「本当だね。こんなに寒いから、降らないほうがおかしいのかもね」
「ホワイトクリスマスね」
「そうだね」

雪は、音もなく優しく天から降ってくる。
「きっと、神様が流した涙が、寒さのせいで氷になってしまったのね」
「神様の涙の氷か」

星が煌く天空を仰ぎ見る。

ふわり。ふわり。

二人を包み込むように、あるいは祝福するかのように、雪は降り続ける。
まだ、本格的な降りになっていないでの、傘は必要なかった。

「メリークリスマス。私からのプレゼントよ」
「ありがとう、マリー。メリークリスマス。僕からのプレゼントだよ」
互いに、プレゼントを交換しあった。
マリーは、気持ちが抑えることができなくて、その場でプレゼントをあけてしまった。
「まぁ。これ、私が欲しがってた髪飾り」
可憐な花のデザインに、ルビーやサファイアがちりばめられていた。
ちりばめられた宝石は、とてもではないが、高級なものではない。値段も、お手ごろ価格だ。
マリーは、決して高級なものを欲しがらない。
むしろ、アレルヤの手作りのものを一番喜んだ。
「貸してみて」
「はい」
マリーの手から髪飾りを受け取って、アレルヤはマリーの銀色の髪に、髪飾りをつけた。
「やっぱり、思ってた通り、似合うよ、マリー」
「ありがとう、アレルヤ」

二人は、抱きしめあったあと、キスを交わした。

「ごめんない。私、アレルヤのように素敵なプレゼントじゃないわ」
マリーが、髪飾りを撫でながら、地面を見る。
「構わないよ、マリー。僕は、プレゼントも本当はいらないんだ。傍に、マリーがいてくれるだけで十分だよ」
「アレルヤ。大好きよ。愛しているわ」
「僕もだよ、マリー」

二人は、静かに寄り添いあう。

しんしんと、雪が降り積もる。

「風邪ひいちゃいけないから、そろそろホテルに戻ろうか」
「そうね」

二人は、手を繋ぎあって、天空を仰ぎ見た。
そして、また口付けを交わした。
アレルヤのオッドアイが、どこまでも優しくマリーを見つめている。
マリーの琥珀の瞳が、同じようにとても優しくアレルヤを見つめている。

二人は、手を繋ぎあって、イルミネーションが瞬く通りを歩きだした。
神様の流した涙は、寒さのせいで氷になって、氷雪となって二人を、町全体を包み込む。
マリーが、アレルヤの腕をとって、腕を組んだ。

吐く息は、どこまでも白く白く。

積もりはじめた雪を、一歩一歩踏みしめながら、二人の恋人は歩き続ける。

またくる、明日へ向かって。