メリークリスマス









「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
「・・・・・メリークリスマス」
「メリー苦しみます」

ロックオンが最初に声を出し、続いてアレルヤ、ティエリア、刹那の順番で定番の台詞を口にする。

「おいおい刹那、メリー苦しみますってなんだ?」
「こんな男四人で、メリークリマスマスを祝うからだ。メリー苦しみますだ」
刹那は、そっぽを向いてしまった。
だが、わりと楽しそうだ。
「刹那に感謝しなくちゃね。わざわざクリスマスツリーまで出して、家もかしてもらったんだもの」
アレルヤが、綺麗に飾り付けされたクリスマスツリーを見る。
蛍光色のライトが、点滅していた。
「それにしても、よくクリスマスツリーなんてもってたね、刹那」
アレルヤの疑問に、刹那が無表情で答える。
「ロックオン・ストラトスが勝手に買ってきたんだ。人の家に、勝手にものを置くなんて。クリスマスが過ぎればただのゴミではないか」
「まぁまぁ、そういいなさんな。それにしても、刹那の家は思ってたより広いな。実は、四人だと窮屈になるんじゃないかと思ってた」
「それなりの高い家賃は払っている。狭い家よりは、ある程度広い家のほうがいい。掃除はハウスキーパーを雇っている」

「わぁ、見て、雪だよ!」
アレルヤが窓にはりついて、外を見ていた。
刹那の家は、日本の経済特区、東京にある。
東京に雪がふるのは、とても珍しいことだ。しかも、クリスマスの日に降るなんて、なんてついているんだろう。
「ホワイトクリスマスだね」
嬉しそうなアレルヤに、ロックオンが表情を和ませる。
ティエリアは、いつの間にか姿を消していた。
「ティエリア・アーデ?」
刹那が、ティエリアの姿を探す。
こんな馬鹿げたイベントを放棄してしまったのだろうか。
それなら、自分も放棄したい。

外に出ようとする刹那を、がしっとロックオンが止めた。
「何をする。ティエリア・アーデはこのイベントを放棄した。俺も放棄する」
「ティエリアは放棄なんてしてないさ。ちょっと着替えてるだけだ。ついでに、俺も着替えてくる」
「着替え?どうして?」
首を傾げるアレルヤに、ロックオンはウィンクした。
それに、アレルヤは大体の事情を察知する。
そして、刹那が外に出て行かないように、話し始めた。
「刹那、どうして日本の東京なんて選んだんだい?家を借りるなら、ヨーロッパのほうがなにかと便利なのに」
アレルヤは、ヨーロッパが好きだった。
生まれ故郷ではないが、国の国境も関係なくこえることができるし、お金もユーロで統一されており、ドル紙幣を持っていないくても、ユーロさえあればことたりた。
特に、永久中立国であるスイスに滞在するのがすきだ。
こんな国に、世界中がなればいいのに。

「簡単なことだ。日本は、極めて治安がいい。銃の所持さえ法律で禁止されているくらいだ。それに、食べ物が世界中のいろんな国のものを食べれる。ハンバーガーが俺は好きだ」
アレルヤは、クスっと笑った。
「刹那は、ジャンクフードがすきだからね」
「悪いか」
「ううん。でも、せっかく育ち盛りの年齢なんだから、もっとちゃんとした食事をとったほうがいいよ」
「俺が何を食べようと、俺の勝手だ。アレルヤ・ハプティズムには関係ない」

パーン。

クラッカーの鳴る音が、部屋中に響き渡った。
サンタクロースの格好をして、髭まで生やしたロックオンが、物陰に隠れているティエリアを見る。
「ティエリア、恥ずかしがらずに出てこいよ」
「ロックオン・ストラトス。あなたという人は、どうしてサンタクロースなのにこんな衣装なんですか!」
仕方ないとばかりに、覚悟を決めたティエリアが、姿を現した。
その格好に、アレルヤと刹那が釘付けになる。
衣装は、サンタクロースをイメージした格好だ。
真紅の服。
ただし、ただのサンタクロースの格好ではない。
ふわふわの毛皮に包まれたフードつきの服の丈は、太ももギリギリの位置。
いわるゆミニスカートのラインであった。下手に足を広げれば、下着が見えてしまう。
そんな格好をするときは、ティエリアはいつも下に短い半ズボンをはいていた。
だが、今回ははいていない。
スースーする足が、心もとない。
気がつくと、毛皮をあしらったスカートの部分を手で押さえていた。

「メリークリスマス!」
ロックオンが、完璧なサンタクロースの格好で、またクラッカーを鳴らした。
「メ、メ、メリー、クリス、マス・・・・」
ティエリアが、ロックオンに習って、持っていたクラッカーを鳴らす。
ふわりふわり。
動きにあわせて、スカートになった部分が揺れる。
首にはガーネットのついた黒のチョーカーをしていた。
眼鏡は外し、コンタクトにしている。
髪は、両サイドの横髪を残して、残りは真珠で彩られたバレッタで留めている。
サンタクロースの、女性衣装版というところだろうか。
それにしては、首元には大きなリボンが縫い付けられていて、腰にもリボンがひらひらと揺れている。
少し、ゴシックロリータが入っているかもしれない。
「あなたの選ぶ服は、どうしてこんなゴシックロリータファッションなんですか!」
「似合うから」
きっぱりと、ロックオンが真顔で返す。
「ロックオン・ストラトス!」
相手の首元を掴もうとすると、アレルヤに止められた。
「ティエリア、すごいかわいいよ。でも、あんまり動くとスカートから下着見えちゃうかも。大人しくしてたほうがいいよ」
アレルヤも刹那も、ロックオンが選んだ服を着るティエリアの姿は何度か見ていた。
ユニセックスな服を好んで着ているが、時折ゴシックロリータっぽいファッションもしている。
パッっと、ティエリアが朱に染まって、短くてスースーするスカートの部分を引っ張った。
引っ張ったところで、スカートの丈が長くなるわけでもない。

「ほれ、クリスマスプレゼント。アレルヤ、刹那、それにティエリア」
順番に、綺麗にラッピングの施されクリスマスプレゼントを、ロックオンが渡していく。
「プ、プレゼントです・・・・」
ティエリアが、観念したかのように、アレルヤ、刹那、それにロックオンにプレゼントを渡す。
どうにも、お菓子のようであった。

「ティエリア・アーデ」
「なんだ、刹那・F・セイエイ」
年少組二人が、真剣な表情で見つめあう。
「似合っている。かわいい」
刹那にまで褒められて、ティエリアは紅くなった。
こんな格好、するんじゃなかった。
普通のサンタクロースの衣装だからと、ヴェーダの指示でもあると丸め込まれ、仕方なくサンタクロースの格好をすることになった。ヴェーダにアクセスしたが、サンタクロースの格好が一番似合うのはティエリアだと、ヴェーダが推奨したのだ。仕方なしに承諾したのに、ロックオンときたら、どこが普通のサンタクロースの衣装なんだ。思い切り少女ちっくなサンタクロースの衣装じゃないか。

ヒラリ。

刹那に、スカートを捲られた。
「わああああ!」
ティエリアは、スカートの裾を掴んで、ペタンと地面に座りこんだ。
「水色の無地か」
「こら刹那あああああああああ!」
スパーンと、ロックオンがどこからともなくスリッパを取り出して、それで思い切り刹那の頭を殴った。
「痛い」
「痛いじゃないでしょ、この子は!何破廉恥なことしてるんだ」
「こんな短いスカートをはいていれば、捲りたくなるだろう」
「だからって捲るな!」
「そうだよ刹那、ティエリアが可哀想だろ。・・・・水色の無地か」
「アレルヤも、何どさくさに紛れて見てるんだ!」
「え、だって、見えちゃったから」

「万死に値する!」
キッと、石榴色の瞳で、三人を見上げる。

かわいい。
三人が、三人とも同じ思考にたどり着いた。

ティエリアの下着は、女性ものではなく、ボクサーパンツタイプの男性の下着だった。
だが、落胆はしなかった。
ティエリアは無性の中性体であるとはいえ、一応は男性ということになっている。
ロックオンのせいで、女性ものの衣服をつけることもあったが、下着だけは絶対に男ものだった。
そのギャップがまたたまらない。

「万死に値する。こんな格好、するんじゃなかった」
スカートの裾をおさえて、地面に座り込んだまま、ティエリアは立てないでいる。
立ち上がったら、短いスカートの裾が動きでひらりと翻り、下着が見えてしまうかもしれない。

「困ったな。これじゃあ、先にすすめない」
「あなたがこんな衣装を渡すからです!」
「ティエリア、刹那にハーフパンツか何か、借りたらどうだい?」
アレルヤの言葉に、ティエリアが顔を輝かせる。
「刹那・F・セイエイ。すまないが、ズボンか何か貸してくれないか」
「分かった。少し待っていろ」

程なくして戻ってきた刹那の手には、ティエリアがよくはくタイプの半ズボンがあった。
ティエリアは、半ズボンに慣れてしまったいるせいか、気にもとめずそれを受け取ると物陰に隠れてはいた。
刹那とロックオンが、視線で会話をしている。
(よくやった、刹那、お前にしては上出来だ)
(もともとあんたが渡したものだろうが)
ティエリアの白い太ももが見えなくなるのは惜しい。
半ズボンなら、下着が見える心配はなくなるし、ひらひらとした短いスカートからはみ出すこともない。
薄い生地でできているので、綺麗な体のラインが崩れることだってない。
完璧だ。
あらかじめ、刹那に渡しておいた半ズボンは、やはり役に立った。
ティエリアの脳に、なぜ刹那が半ズボンなんて持っているのかという謎はなかった。
ただ、スカートだけという状況から脱したかった。

改めて、ティエリアが姿を現す。
機嫌は直っているらしく、ロックオンの隣にたって、ロックオンがクラッカーを鳴らすと、少し遅れてクラッカーを鳴らした。

「メリークリスマス」

刹那は、ロックオンから受け取ったプレゼントをすでにあけていた。
中身は、エクシアのガンプラだ。
「ロックオン・ストラトス、あんたのことが少し好きになった」
大切そうに、ガンプラを飾る。
「選んだのは、ティエリアだぜ?刹那は、これがすきだって」
刹那は、ティエリアのほうを向くと、その白い手を握った。

「ティエリア・アーデ好きだ。いつか、結婚しよう」
スパーン!
再び、ロックオンがスリッパを取り出して刹那の頭をはたいた。
「何ティエリア口説いてるんだ!ティエリアは渡さないぞ!」
「ちっ」
「ちっ、じゃないでしょう、この子は」
刹那と、ロックオンが追いかけっこを開始する。
そんな様子をみて、アレルヤが笑い声をあげる。
ティエリアも、同じように笑う。

アレルヤが、しんしんと積もる雪を、窓から眺める。
「ホワイトメリークリスマス!」
それに、追いかけっこを中断した刹那が、ロックオンに捕まりながら、無表情でクリスマスツリーを見た。
「メリー苦しみます」
「メリークリスマスだろ、刹那」
ティエリアが、真紅のスカートをひらりと翻した。

「メリークリスマス」