世界が終わっても、もう一度出会えるって信じてた? それはあなたの言葉。 まるで呪文めいた。なぞなぞみたいな。詩のような。 私はそのとき、首を横に振っていた。 だって、もうあなたとは出会えないと思っていたから。この世界に私という生命がある限り、本物のあなたと出会うことはないと思っていた。 でも、出会えた。 これは、あなたから始まる物語。 あなたとまた出会えて始まる物語。 シンデレラが王子様と再び会うように。トキめいて。世界は薔薇色に変わる。私の人生の全てが変わっていく。 「おはよう、ティエリア」 「おはよう、ニール」 ティエリアは、ニールと一緒のベッドで眠っていた。ニールとジャボテンダーさんを一緒に抱きしめていた。そっと離す。ジャボテンダー抱き枕を抱きしめ直すティエリア。 昔は低血圧でよくニールに直接起こしてもらったっけ。今では、自然と起きれるようになった。 人は変わっていく。ゆっくりと、ゆっくりと。 二人は、半身を起こすと、朝のキスを交わす。 なんて甘い。 そんな毎日。 隣のベッドから、メラメラと燃える視線がやってきたかと思うと、リジェネが自分のジャボテンダーを振り上げてニールを殴った。 「この獣があああぁぁぁ!朝からティエリアに何している!」 「いや、ただおはようのキスしてただけだから!」 「ティエリアは渡さないよ!」 リジェネに抱き寄せられて、ティエリアは欠伸をしていた。少し、眠い。昨日遅くまでAI開発のためのプログラミングをしていたせいだ。 朝の、柔らかい日差しが窓から入り、かーぺっとを暖めている。 ポカポカと、リジェネの手からすっとんでいったジャボテンダーのジャボ太郎(男性)が、ティエリアのジャボテンダーのジャボ子さんと絡み合っている。 「ダメです、まだ早いです!あなたには、まだ早いです」 「ティエリア、分かってくれたんだね」 リジェネが涙ながらに呟くのを無視して、ティエリアはジャボ子さんを抱きしめる。 「ジャボ太郎さん。まだ、僕はジャボ子さんとの交際を認めたわけじゃありませんから。僕のジャボ子さんと戯れるのは、僕の許しをえてからにしてください」 ガックリ。 リジェネは不思議生物なティエリアに振り回されている。 ニールは慣れているので、優しく笑っていた。 今日も、新しい一日が始まる。 リジェネは一番に起きだして、着替えると、昼食を作るために下に降りた。 ティエリアは、まだニールとお揃いのパジャマで欠伸をしている。 「ティエリア、眠そうだな。昨日遅くまで仕事してだだろ。朝食できるまで、も少し寝てろ」 「はい・・・・」 ティエリアは、薄い毛布を被って、ベッドに横になる。 ティエリアとニールとリジェネは家族だ。 リジェネは、桜が舞う季節にニールとティエリアをあわせた。それはもう、涙の大洪水だった。リジェネまで泣いていた。 あの気丈なリジェネまでもらい泣きするほど、二人の再会は感動的だった。 あれから1年と少し。季節は移りかわる。 リジェネは、ニールの弟であるライルに、今年の春にアニューと同じ姿をしたイノベイターと引き合わせた。ティエリアがそう望んだのだ。 隣の家に、アニューとライル夫婦は住んでいる。年末に結婚予定だったのを繰り上げて、桜が散り終わる前に、出会ってすぐに結婚してしまった。アニューは、本当のアニューではなかったが、ライルには最後まで愛し合う覚悟があるようだし、不思議なことに本物のアニューの魂を持っているかのように、ライルの妻は二人きりの僅かな時の記憶も思い出している。 まるで、魂の、邂逅。 そのときも、影でリジェネは泣いた。ティエリアは勿論泣いたし、ニールも泣いていた。リジェネはまるで、皆にとって本当に天使のような存在だ。 本人は、悪魔だの、悪魔王だのいってるけれど。 「ニール、サラダ作るの手伝ってー」 キッチンから、リジェネの声がする。 ニールは、浅い眠りについてしまったティエリアの頬にキスをして、髪を撫でると、返事を返す。 「ポテトサラダでいいか?」 「このじゃがいも男が!それでいいよ」 リジェネは、籍を入れたティエリアとニールの養子ということになっている。ニールの体は細胞的にイノベイターに近く、リジェネ曰く老化しにくいのだという。反対に、アニューの体の構造は人間で、年とともに老化していく。 でも、ティエリアにもライルにも、老化だとかそんなこと、どうでもよかった。ただ、愛した人が隣にまたいる。それだけで、本当に昇華してしまいそうなほどに。 NEXT |