ニールは、今にも自殺しそうだった。 僅かの可能性も絶たれた。 ニュースは飛行機が墜落した現状を映し出し、散らばった機体の破片を映す。もげた人間の足らしきものが見えた。 「嘘だ、ティエリア」 もう一度ニュースをつけると、飛行機には有名な小説家が乗っていたらしく、その話題で持ちきりだった。プルルルルル。リジェネの携帯が鳴る。 「もしもし、ティエリア!?」 リジェネは、刹那の可能性をかけて話しかける。 「ティエリア・アーデという名前が・・・・墜落した飛行機に・・・そんな・・・・リジェネさん・・・・・そんな・・・・こんなことって・・・・」 ティエリアとリジェネが参加しているユニットのマネージャーからだった。 「ごめん。今、ちょっととりこんでるから。後でかけ直すよ」 リジェネは、携帯を切った。 その後も、リジェネとニールの携帯には、刹那やマリナ、ライルにアニュー、アレルヤにマリー、その他CB関係者の者がひっきりなしに、安否を気遣う電話をかけてくる。 うざくなって、リジェネはニールと自分の携帯を、踏み潰した。 リジェネは、殺気だっていた。ニールは放心したまま動かない。 本当に愛した人を失った時、人はどうなるのか分からない。悲しみにくれるのが普通だろうが、二人とも違った。 「・・・・・・・・ティエリア。僕は、君を作るよ」 リジェネの目は、発狂した科学者のそれだった。 石榴の瞳。 その言葉を境に、いくつもの涙がリジェネの頬を伝う。 それに共感するかのように、ニールのエメラルドの瞳からも、大粒の涙が白い頬を伝った。 「帰ろう、ニール」 「何処へ?」 差し出した手を、ニールは掴まない。 「ティエリアのいない世界なんて、生きていても意味はない」 「それでも、帰ろう。後追い自殺はしないで。僕が、君を生き返らせたように、ティエリアを作るから」 「でも、それはティエリアじゃない。俺が愛したティエリアじゃない」 「それでも!!ライルは、それでもアニューを愛しているじゃないか!あのアニューは、ライルが愛した本物のアニューじゃない。それでも、ライルはアニューを最後まで愛しぬく覚悟があると言った!」 「俺は・・・・・」 ニールは、静かに顔を伏せた。 「ふ・・・・」 リジェネを強く抱き寄せる。 「ニール・・・・」 ニールは、泣いていた。リジェネは、泣きながら、ティエリアを作ると言い張っていたのだ。 リジェネも、泣いた。 二人で、お互いを抱きしめあいながら、泣いた。 言葉もなく。 ただ、悲しみと絶望にくれながら。 やがて、二人は手を繋いで歩きだす。 いつものニールとリジェネなら、ありえないことだった。 「ティエリアを作るまで、僕のことティエリアって呼んでいいから」 「ティエリア、愛している」 「僕も、愛しているよ、ニール」 偽りの恋愛。 ティエリアを作るなんて、そんなこともうできないのを知っていて、リジェネは作ると言い張った。 リジェネに、イノベイターを作る能力はない。 同じ細胞を持っていても。ティエリアの量産型のイノベイターは、CBの地下で管理されて眠っている。どのイノベイターも、カプセルの外で1時間と生きれない。 それでも。 それでも。 刹那の可能性に。 リジェネは笑った。泣きながら。 そんなリジェネを、ニールが抱きしめる。 ティエリア、と呟きながら。 噛み付くようなキスを交わす。二人とも、壊れかけていた。 NEXT |