「ハピバースディ、アレルヤ」 ミス・スメラギがそういって、ぽんと肩を叩いてくれた。 「ありがとう、スメラギさん」 アレルヤは笑顔になる。 こんなな戦いにまみれた中で、誕生日を祝ってもらえるとは思っていない。 言葉をかけられるだけでも嬉しい。 「アレルヤはみんなと外れる傾向があるから。今夜、私の部屋にきなさい。一緒に飲みましょ。ぱーっと・・・っていうわけにはいかないけど。お祝いよ」 「はい、行きますね」 アレルヤは本当に嬉しそうだった。 アレルヤはハブラレルヤだ。 KY、空気が読めない。 誕生日を祝ってもらえるなんて、そんな期待は最初からしていない。 ブリーフィングルームに入る。 「ちょ、刹那なにしてるのさ!」 刹那が、ブリーフィングルームに咲いた花を勝手に摘み取って、花束にしていた。 ここに咲いている花は、みんなの癒しでもある。特に、ティエリアは花が好きで、枯れないようにかかさず世話をしていた。 忘れな草からカスミソウ、薔薇、百合、マリーゴールド、パンジー、シクラメン・・・いろんな花が咲き乱れて、まるで小さな植物園だ。 その花を、刹那がかってに摘み取って、花束の形にしていた。 「ちょうどよかった。やる」 百合と薔薇を中心に、まわりをカスミソウで彩って、緑の包み紙の中に入れられた花束を、無表情でアレルヤに押し付ける。 「やるって刹那!僕がティエリアに怒られるじゃないか!」 ティエリアは怒ると、怖い。普段は温厚、とは言わないが、滅多に怒ることはない。本当に怒ると、急所に蹴りが飛んできて、しばらくの間完全無視だ。 「全く、いつまでたってもお前はKYだな」 「KYって・・・・」 空気読めない。 花束を押し付けられ、刹那がポンと肩を叩く。 「誕生日、おめでとう。ティエリアから、花を摘んでもいいと許可はとってある」 「刹那・・・・・」 アレルヤは、ジーンときた。 まさか、刹那に誕生日を祝ってもらえるなんて。とても嬉しい。 ブリーフィングルームを出ると、ライルとアニューに会った。 「お、花束か。刹那だな。ちょうどいいや、こっちきてくれ」 ライルに案内されて、ライルの部屋に入る。 「ハピバースディ、アレルヤ」 「ハピバースディ、アレルヤ」 ライルとアニューが笑顔で祝ってくれた。 「ありがとう、二人とも」 アレルヤはもはや泣きそうなほどに感動していた。 「これ、やるよ。まだ使ってない。二つある。彼女のマリーにもあげるといい」 渡されたのは、包みに入った腕時計。 そんなに高い代物ではないが、とても嬉しかった。何より、愛しいマリーとお揃いになれるように、との気配りがとても嬉しい。 「ごめんなさい、アレルヤ。私・・・・その、人の誕生日を祝うのってはじめてで・・・ろくなものじゃないけど」 アニューがくれたのは、手作りの無地のハンカチに綺麗な蝶と花の刺繍を施したもの。 「ありがとう。大切にするね」 花束と一緒に抱える。 そのまま、アレルヤは笑顔で自分の部屋に戻り、白熊の踊っているファンシーな花瓶に水を入れて、刹那からもらった花束を活ける。 「そういうえば、マリーどこにいっちゃたんだろ」 アレルヤは、マリーを探すべく艦内をうろつきはじめた。 ブリーフィングルームにくると、ティエリアが微妙な顔つきで立っていた。 「ああ、アレルヤか。刹那のやつ、許可はだしたが、いくらなんでも摘み取りすぎだ。後で会ったら、ジャボテンダーさんクロスパンチをお見舞いしてやる」 「ははは・・・・」 無残なことになった植木鉢を見る。 確かに、ちょっとっていうかかなり摘み取りすぎな気がする。 でも、ブリーフィングルームに咲いている花は全て遺伝子をいじられているので、またすぐに花を咲かせるだろう。 ちなみに、アレルヤもジャボテンダーさんクロスパンチをお見舞いされたことがあったが、見事に拳が鳩尾にきまって、ジャボテンダーさんとかもってたけど、ただのごまかしだった。 「ついてくるといい。君に見せたいものがある」 「え、まさかティエリアまで僕の誕生日祝ってくれるの?」 あのティエリアが。 ティエリアは、ムスっとした顔つきになって、眼鏡をかけなおす。 「だから君はいつまでたってもKYといわれるんだ。こういうときは、黙ってついてくるものだ」 「・・・・・はい、ごめんなさい」 ティエリアは、アレルヤを伴ってバーチャル装置の前にやってきた。 「バーチャル装置?」 「いいから、入れ」 無理やり中に押し込まれ、ティエリアも中に入って装置を連結し、そのまま仮想空間にダイブする。 (AIマリアが、今日も皆様をご案内します。マスター、フィールド0235でよろしいのですね?) 「ああ、頼む。転送してくれ」 ナビゲーションAIのマリアが、データをロードする。 (只今転送中です。データのロードが終了しました) そこは、懐かしい四年前のトレミーのアレルヤの部屋。 目の前に、自分が立っていた。 いや、違う。この雰囲気、髪型、黄金の瞳。 「ハレルヤ?」 「よー。元気でやってるか。このクソボケ」 「ハレルヤ!」 アレルヤは涙を流して、ハレルヤに抱きついていた。 ティエリアの姿はない。 「あー、何ないてんだよ。っと、忘れるとこだった。誕生日おめでとう、アレルヤ」 「誕生日おめでとう、ハレルヤ」 「何いってんだよ。おれ(別人格)に誕生日なんてあるわけねぇだろ」 「ううん、そんなことないよ。ハレルヤはもう一人の僕だもの。今日が、ハレルヤの誕生日だよ、絶対に」 「まぁ、礼いうなら女みたいなあのガンダムマイスターのガキに言えよ。こういう風にしたの、あいつだから。わざわざ二日も徹夜で自分の記憶にある俺様をデータとしてロードしたんだぜ」 「ティエリア・・・・」 一番嬉しい、プレゼントだった。 まさか、いなくなったハレルヤに、仮想空間の中とはいえ、こうして姿を見て会話できるなんて。 アレルヤは、いっぱいたくさんのことをハレルヤに語りきかせた。 ハレルヤは欠伸をしながらも、アレルヤの言葉を聞いてくれた。 「っと、時間だ」 「ハレルヤ?」 「勘違いすんな。おれは戻ってきたわけじゃねぇ。データなんだよ」 「うん・・・分かってるよ、ハレルヤ。ありがとうね。消えないでっていっても、無理なんだよね。ありがとう、ハレルヤ。本当にありがとう!」 「泣くなよ、ボケ。もう24なんだろ?もっと男らしくしろよ」 ハレルヤに抱きしめられて、アレルヤは涙を流した。 「うん。今だけだから。愛してるよ、ハレルヤ」 「俺も、お前のこと愛してるよ」 ハレルヤは、それだけを告げると空気に溶けるように消えてしまった。 「ハレルヤ!見ていて!君に恥ずかしくない生き方をして、世界を変えてみせるから!」 アレルヤは叫んでいた。 (データを、通常マップに転送いたします) そこは、いつもの今のアレルヤの部屋。 そのベッドの上で、ティエリアが座っていた。 「どうだった。少しは、気に入ってもらえたか」 アレルヤは、ティエリアを抱きしめた。 ティエリアからは、甘い百合の花の香りがした。 「アレルヤ?」 「ありがとう、ティエリア。本当に、ありがとう」 涙をまだ零すアレルヤの頭を、背中を、ティエリアが優しく撫でる。そのまま、落ち着くまでそうしていてくれた。 「眠い・・・・限界だ」 ティエリアの目のしたには隈があった。二日徹夜したのだという、眠くてあたりまえだろう。 仮想空間から出て、バーチャル装置を出ると、刹那が待ち受けていた。 「刹那・・・・眠い。僕の部屋へ・・・・もうだめだ。寝る」 刹那のほうに歩いていく途中で、ティエリアは眠ってしまった。そのまま傾ぐ体を、刹那が抱き上げる。 「ティエリア・・・・本当に、ありがとう」 アレルヤは涙をぬぐって、強く前を向く。 刹那は、いつもは無表情な顔に穏やかな優しさを浮かべて、ティエリアに自分がきていたポレロを被せると、無言で歩いていった。 それから、気づいたように振り返る。 「ソーマが、食堂で何かしていたぞ」 「マリーが?」 アレルヤは急ぎ足で食堂に向かう。 すると、ソーマの苛立つ声が聞こえてきた。 「くそ、また失敗か・・・・マリーはうまく作れるのに、完全な超兵であるはずの私が作れないなんて・・・」 「マリー?」 「何度いえば分かる!私はソーマ・ピーリス・・・・アレルヤ」 ソーマは、やばい現場を目撃されてしまったというように、たじろいだ。 「違う、これはお前の誕生日を祝おうと作ったわけでは・・・・あああああ」 自爆を踏んだソーマ。 「マリー、ソーマ・・・・その気持ちだけで、十分だよ」 抱き寄せられて、キスされた。 「アレルヤ・・・・」 食堂のキッチンをかりて作っていたのは、バースデーケーキ。でもぐちゃぐちゃで、とても見れたものじゃない。 それを、アレルヤはフォークを持ってきて食べだした。 「やめろ!腹を壊すぞ」 「構わないよ。・・・・おいしい」 「本当に?」 ソーマの黄金の目が、見開かれる。 「ほら」 目の前にケーキの塊を一口分もってこられて、ソーマは苦労したせいもあって、いつもならしないのに、そのまま食べてしまう。 「本当だ・・・美味しい・・・良かった」 ソーマは笑った。 いつもはティエリアのようにムスっとした表情しかしないツンデレラ。柔らかくなったティエリアより、ツンデレぶりはLVが高い。 ソーマの顔に、笑顔が浮かぶ。 「ハピバースディ、アレルヤ・・・と、マリーがいっている」 素直でないソーマ。でもそこが愛しい。マリーもソーマも。アレルヤには、ハレルヤと同じくらいに愛しい存在であった。 「ありがとう、マリー、ソーマ」 それから、廊下を歩くたびにクルーから誕生日プレゼントや祝いの言葉をもらった。 ソーマが、今日はアレルヤの誕生日だから祝ってやってくれと、皆に声をかけたのだ。 結局、アレルヤはミス・スメラギの部屋にソーマと一緒に顔を出し、三人で酔っ払って、酔ったソーマがミス・スメラギと意気投合して、アレルヤは結局ハブラレルヤになり、いい雰囲気のライルとアニューに声をかけてしまい、ライルにKYだといわれ、泣きながら一人むなしくベットで眠るのであった。 でも、帰ってきたソーマが、アレルヤの寝顔を見て、額にキスをしたのは、ソーマとマリーだけの秘密。 |