「そうさ、俺はCBでもない、カタロンでもない、自分の意思でイノベイターをぶっ潰す!」 ライルは、天井を見上げた。 刹那は、ノーマルスーツのまま宙をけって、完全に背後を見せている。 (アニュー・・・・・) ライルは、拳銃を取り出す。 震える手で、引き金に手が伸びる。 「・・・・・・・・」 刹那は、降る向きもしない。 これほどの殺気を感じれば、あの刹那であばれば気づくはずだ。 「・・・・・・・・・・・・・」 小型銃をおろしたライルは、見えない涙を零した。 刹那は、振り向きもせずに角をまがった。 「ライル」 小さな声で、銃を撃つことをしなかった彼に、感謝した。 そこで、廊下に立つと、兄であるニールに同じように銃を向けられた記憶が蘇る。 あとの時とは違う。今の刹那には、撃たれる覚悟はあった。撃たれても仕方ないことをした。でも、致命傷は避けるつもりだった。 俺は変わっていく。人類を導くイノベイターのように、変わっていく。 そのときの刹那の瞳は、金色に輝いていた。 ライルは、唇を噛み締める。 「・・・・・兄さん」 ねぇ、兄さん。 兄さんが、家族の仇をうって散った気持ちがよく分かるよ。 俺も、アニューの仇をうって散りたい。 できることならば。 でも。 でも、俺にはまだすることがある。 イノベイターを、俺の手でぶっ潰す。 刹那を撃つことは間違いだって分かってる。 でも、まだ心のどこかで納得がいかねぇんだ。 「僕に、君を撃たせないでくれ」 ノーマルスーツのままのティエリアがいつの間にか、手に銃を構えて立っていた。 ライルの背後を、ずっと、ティエリアを狙っていた。 もしも、ライルが銃を発砲したら、迷いなく引き金を引くつもりであった。 銃は、麻酔銃だ。 「なぁ。ティエリア。兄さんが・・・どんな気持ちでずっと生きてきたのか、ようやく分かったよ。こんな経験をして分かるなんて、俺はばかだな・・・・」 制服姿のライルから、銃をティエリアはとりあげる。 ヘルメットはつけていない。 さらさらの紫紺の髪が宙に浮いていた。 ティエリアは、手を伸ばして、ライルの瞳を拭う。 「涙なんて・・・・あれ・・・・」 泣いて、いた。 「参ったなぁ・・・・兄さん、刹那、アニュー・・・・俺は・・・」 「刹那への復讐は、全てが終わってからにしてくれ。この戦いが終わってからなら、彼は迷いもなくあなたに撃たれるだろう。だが、その時は僕があなたに銃をつきつけることを忘れないで欲しい。私は、あなたにも、刹那にも死んで欲しくない。欲張りといわれようとも」 「ティエリア・・・・」 「ライル。今は、イノベイターの駆逐だけを考えろ。アニューがなんのために貴方を愛してそして他のイノベイターの支配を受けてしまったのか、刹那がなんのために引き金をあなたのかわりに引いたのかを忘れるな。全ての原因はイノベイターにある」 石榴の瞳が、星を見上げる。 「私は・・・・・刹那と一緒に見届ける。この戦いの最後を。どんな結末になっても。あなたも、見届けろ」 「かわいい教官殿は強いな」 「あなたほどではない・・・。あなたのような体験をしていたら、私は迷わず刹那を殺していただろう」 「ティエリア」 「ロックオン・ストラトス。もうすぐ、戦いは終わる。どうか、そのときまでロックオン・ストラトスであってくれ。ライル・ディランディであると同時に」 覚悟は、皆胸の中にある。 生きる覚悟も、撃たれる覚悟も、死ぬ覚悟も。 この長かった戦いの終末の時は近い。 |