ラブファントムU「サヨナラは始まりのコトバ」







「あなたに、届いていますか。愛しているという言葉」
「うん。ずっと、届いてる」
「そうですか・・・・」
「だから、安心しろよな」
「一緒に、歩きましょう。今、桜が綺麗で、満開なんです。一緒に、並んで、笑って、手を繋いで・・・・・」
ポッ、ポッ・・・。
「嫌だ!連れて行かないで!!」
エメラルドの光に溶けていく。
ニールの体は、もう原型を留めていない。
かき集めるように、ティエリアは泣き叫ぶ。
「還ってきてくれたのに。またいってしまうのですか」
「ごめんな。愛してるから・・・・お前がまだ、俺が死んで9年以上もたつのに、愛してくれてるのをずっと見てた。そばに、今でもいるよ。心の中に、今でも生きてる。ずっと、永遠に愛してる。でも・・・残酷でごめんな。刹那と幸せになれ。お前の涙見るの辛いんだよ。」
「だったら、いかないでください。ただいまと、言ったばかりではありませんか」
「うん。桜、かぁ。綺麗だろうな。一緒に歩いて見たかった」
「一緒に、歩いて、見上げて・・・いっぱいいっぱい・・・・私は、あなたがいるから、私であれるのに!!ああああぁぁぁぁ・・・・・」
「・・・・・・なぁ。知ってるか。サヨナラは、始まりの呪文。また、世界の何処かで会えるっておまじないなんだ。ティエリア、さよなら。いつか、この世界のどこかで・・・・また、会おう」
「信じます。あなたの言葉を。さようなら・・・・ニール」

エメラルドの光は、天に還っていく。
ポッ、ポッ・・・・。
幾つもの光の雫となって、浄化するように、天に昇っていく。

そのうちの一欠けらが、ティエリアの胸に吸い込まれた。
「感じる・・・・あなたの、暖かさを・・・」
もう、そこにはニールの姿だったアンドロイドはいない。

最後の言葉が、響いた。

「いつでも、傍に、いるよ。見守っているよ。愛してるから。・・・・・・刹那と、上手くやっていけよ。じゃあな」

まるで、どこか旅行にいくような軽い感覚で。
ふっと、世界からニールであった全てが消えてしまった。
「さようなら・・・・ニール。きっと、世界のまた何処かで、遙かなる未来に、会いましょう」

ティエリアは、エメラルドの光に包まれていたかと思うと、その光も消えてしまった。
刹那は、ピジョンブラッドの真紅の瞳を閉じて、無言で泣いていた。

ティエリアは、護身用のナイフを取り出して、刃を光らせる。
「何を!」
刹那が止めるよりも前に、長く伸びた髪をつかむと、そのまま勢いに任せてざっくりと、肩の下あたりで切ってしまった。風に、紫紺の髪が散っていく。
「ここで、立ち止まらない。私は、泣いても、どんなに泣き叫んでも、ここで終わったりしない。髪、伸びすぎて鬱陶しかったんだ」
また、ザクリザクリと切っていく。
刹那はもう止めない。

肩の下あたりで適当に切り揃えると、ティエリアは歌いだした。

「刹那。聞いてくれる。”始まりのコトバ”って唄」
「ああ」
歌姫は、美しく煌く。

何度でも何度でも何度でも
あなたに出会う あなたを愛する
愛の奇跡を繰り返す 真っ白なキャンバスに
隣に寄り添って手を繋いで歩く
ラ〜ラララ〜 ラ〜ラララ〜
空を見上げてごらん 蒼い蒼い青空があるから
涙を零しそうな日には ほら空を見上げてごらん
愛の奇跡を描こう 真っ白なキャンバスにゼロから
何度でも何度でも何度でも
あなたに出会う あなたを愛する
あなたの魂の音色は心に刻まれている
ルールルル〜 魂の輪郭まで〜
出合って良かったよ 愛し合えて良かったよ
後悔はしていないから こんなにたくさんの愛をくれたあなた
何度でも何度でも何度でも
またきっと 世界の何処かで出会うから
いつかいつかきっときっと この世界の何処かで巡り合う
それまで少しだけ さようなら これは終わりの言葉じゃない
これは始まりの呪文 さようなら また愛し合うために
私たちは アダムとイヴのように エデンを抜け出す
ロストエデン さぁ どうやって道を歩いていこうか
これは始まりの言葉 これは始まりの呪文
愛しているとあなたに伝えるための コトノハ
サヨウナラ コノ世界デ イツカキット
らーらららら らーらららら


「「らーらららら、らーらららら」」

刹那とティエリアは、手を繋ぎあって歌った。ティエリアのアルバムに収録されている唄だ。代表的な唄なので、歌詞を刹那も知っていた。ティエリアの歌詞は、まるでニールへの愛の言葉のようだ。
そう、この唄のように。

いつか世界で、ニールとティエリアはまた出会うだろう。それまで、少しだけさようなら。
刹那は、ティエリアを抱き上げる。泣きすぎて、疲れてもう立っていることができなくなってしまったのだ。
太陽が、眩しい。
「帰ろうか」
「うん。帰ろう」



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