白い花へ捧ぐ









マリナは、カタロンに身を寄せていた。
匿って貰う形になっている。
アザディスタンは、もうこの地球上から消えてしまった。
衛星兵器のことも衝撃だった。
連邦政府は、徹底的に中東地域の戦力を潰すつもりであるらしかった。
百万人の避難民が、命を奪われた。
そのニュースに、マリナは蒼い瞳を涙で濡らした。

何の罪もない人々の命が消えていく。
救うこともできない自分。

皇女として生まれながら、人々に支えられて暮らしていた。
国をよりよきものにしようとしたが、連邦政府に加わらないと決断したのはマリナである。
連邦政府のやり方は間違っている。
もっと、違う道で生き残る方法はないのか。
結果は、飢餓と貧困。
そして、地球上から永遠に、アザディスタンは消えてしまった。

マリナは、子供たちの寝顔を見つめながら、刹那からもたされた超小型パソコンにメッセージが入っているのに気づき、電源をいれた。
それは、携帯電話に似ていた。
宇宙にいるはずの刹那とやりとりができるのは、この超小型パソコンを置いて他にない。

刹那のいる場所は遥か彼方の宇宙だ。
遠すぎる。

マリナは、蒼いブルーサファイアの瞳で、刹那の言葉を読んだ。

「メリークリスマス。どうか、マリナ・イスマイールに幸があらんことを。衛星兵器は、命にかえても俺たちで破壊する。マリナ・イスマイール、強く生きろ。アザディスタンのことも、中東のことも、一人で抱え込むな。俺はお前の傍にいてやれない。だが、心はいつもお前の傍にいる。マリナ・イスマイール、愛している。どうか、強く生きてくれ。そしていつか、争いのない日が着た時に、お前を迎えにいく。その時は、どうか笑っていられるように。マリナのブルーサファイアの瞳が俺は好きだ。地球の色だ。いつか、絶対に迎えにいく。それまで待っていてくれ、俺のマリナ。俺の白い花」

一気に読み終わり、黒ともとれるマリナのブルーサファイアの瞳から大粒の涙が溢れ、ポタポタと床を濡らした。

「刹那。刹那!!」

名前を呼んでも、彼は遥か宇宙の彼方で、衛星兵器破壊のために、命をかけて戦っているのだ。
信じている仲間たちと共に。

マリナは、顔をあげた。
涙を、服の袖で拭うと、胸の前で手を組んだ。
そして、祈る。

刹那が、刹那たちが、衛星兵器を破壊してくれることを。
アロウズを、駆逐してくれることを。
この歪んだ世界を、元に戻してくれることを。
衛星兵器、メメント・モリを破壊してくれるのは、刹那たちを置いて他にはいない。

マリナは、強く生きなければならないのだ。
祖国を無くし、皇女としての威厳さえもなくしてしまった。
自分には、もう何もない。
あるのは、ただその身一つだけ。

それでも、刹那は待っていてくれと言ってくれた。

「私、ずっと待っているわ。命が尽きるその日まで。刹那」

遠い宇宙にいる刹那に届くように、マリナは祈った。
どうか、無事でありますように。
刹那に、神のご加護がありますように。

そして、いつの日か再びめぐり合えますように。

服のポケットから、刹那に渡されたケース入りの黒曜石を取り出す。
それをぎゅっと握り締めて、マリナは刹那を想った。
遠く離れていても、心はきっと一つだ。
未来のために、明日のために。

マリナのブルーサファイアの瞳は、地球の色を灯して、まだ見えない暗闇に照らされた明日を見つめていた。