「誕生日おめでとう、ニール!」 「・・・・・・一応言っとくよ。おめでとう」 笑顔のティエリアと、ムスっとした表情のリジェネ。 普段だってティエリアはニールを愛しすぎて乙女なのに、いつもはかっこいいのに乙女で、そんな今日はニールの誕生日。 ティエリアが覚えていないはずがない。 「ごめんなさい・・・・・僕、料理が下手だから。ケーキ、リジェネにつくってもらったんです」 「でも、ティエリアもがんばったよ。苺きったり、ホイップクリームで飾ったり」 リジェネが、気落ちしたティエリアを励ます。 「うん。ありがとな」 誕生日ケーキは見事なものだった。流石、リジェネが作っただけある。リジェネの料理の腕は達人だ。 ニールは笑顔で、三人分均等に切り分けた。 でも、ニールもリジェネも、のっかている苺はティエリアにあげた。 ティエリアはとても嬉しそうだ。苺が大好きなのだ。 「うん、美味しい。ありがとう、ティエリア、リジェネ」 リジェネはさも当たり前と受け取り、ティエリアは顔を輝かせる。 ニールは、細胞はイノベイターと変わらぬようになってしまい、24歳のまま肉体は老化していない。反対に、弟のライルは彼女のアニューと一緒に、自然に年をとっていく。いつか、弟と別れるときがくるかもしれないが、それはずっとずっと未来のことだ。今は、目の前にある幸せだけを見つめよう。 「これ、僕から・・・・つまらないものですが」 ティエリアからの贈り物は二つあった。一つは高級自動車のキー。ここらは、収入ならではのものだろう。でも、ニールを喜ばせたのは、ティエリア手作りの、「ティエリアとデート券」だった。 「これあれば、ティエリアとデートできるの?」 「はい。EXは、その・・・・・」 ティエリアの顔が紅くなる。 ようは、僕を食べてもOKという券なのだろう。 ニールは、それをリジェネに取り上げられるまえに大切にしまった。 「くそ、ニールだけ・・・・」 リジェネは、舌打ちした。 早速、明日EXデート券を使おう。 ニールはにまにましていた。 「これ、僕から」 リジェネは、つまらなさそうに、ポンと放り投げた。 「あの、リジェネさん?」 「なに?」 「これは?」 「考えるのめんどくさかったから。それで、好きなものでも買ってくれば?」 流石はリジェネ。 思考もリジェネ(どんな思考だ) ポンと投げられたのは一千万円の札束だった。 「じゃあ、もらっとく」 「リジェネ!こんなの、ニールに失礼だろ!」 「そうでもないよ。ニールは、それを絶対に有効活用する。嬉しいでしょ、ニール?」 「ああ。ありがとな。おれの収入じゃ、足りなかったから。かといって、ティエリアとリジェネの収入に頼るのもなんだしな」 「ニール?」 「あのな。アフリカの子供に、毎月仕送りしてるんだ。俺の金で、学校がやっと建ったって。でも、机も椅子もなくて、学校っていっても青空教室で。この前仕事だって旅行いっただろ?慈善団体の一員として、現地に赴いたんだよ。もっとお金があればちゃんとした学校が建てられるのに、寄付を募ろうとしていたところだったんだ。このお金があれば、ちゃんとした校舎が建てられるし、机も椅子も、教材だって買える」 ニールは、嬉しく語る。 「そう、か。そんな使い方が・・・・リジェネ、ありがとう。一瞬でも、君を人でなしだと思った僕を許してくれ」 「勿論許すよ、ティエリア」 「僕は、団体に寄付しているだけで・・・・そうか。ニールは、自分で慈善団体の一員になっていたのか」 「そういうこと」 ティエリアは、改めてニールの素晴らしさを感じた。 普通は、寄付するだけで、自分から慈善団体の一員になろうなんて考えない。寄付すればいいものだと考えていた。でも、実際には、金だけではだめなのだ。人材が必要なのだ。 そう、子供に教育を教える、いろんなことを教える人材が。 ニールの担当はもちろん家庭科。時折アフリカの現地に赴いては、実際に子供たちの目の前で料理する。いつもはネットを使って、現地の家庭科の教師を指導している。 金だけでは、子供は知識的に豊かにならない。食べ物も着る物も買える。でも、知識はそこにはない。知識を教える人材が揃って、はじめて子供は満たされるのだ。 学ぶという、先進国では当たり前の行為に。そして、良い大人となり、生れてくる子供たちに勉強を教えたいと先生になり、病気を治したいと医者になり、いろんな、地味でも何かの職業について、大人はまた子供に知恵を教える。そうして、国は豊かになっていくのだ。 「ニールは素晴らしい。僕も、その慈善団体に入りたい」 「そうか。今度、一緒に本部にいこうか」 ニールも嬉しそうだ。 「僕もいく」 「リジェネまで?」 「どうせなら、メインボーカリスト二人が入ったほうが、ファンからの寄付は大きくなる。ファンの人間が、僕にほめられたいがために、慈善団体にはいるかもしれない。中途半端な気持ちからはじめても、気づくとわりと必死になっているものさ。人間は、愛なしでは生きていけないから。忘れたの、ニール。僕に、人を愛するという素晴らしさを教えてくれたのは、ニール、君だよ」 「そうか。ありがとう、リジェネ」 ティエリアとリジェネのユニットグループはアフリカの貧しい子供たちに愛の手をと、アルバムを作りコンサートでヨーロッパ中を回った。総収入日本円で35億突破。全ては寄付され、そしてリジェネが目論んだとおりに、ファンの子が慈善団体に入り、そこで人生が変わりましたというファンレターと、アフリカの子供たちと一緒に並んでとった写真が同封されているものが何通も届いた。いろんな慈善団体に参加するファンの子らに、リジェネはいつも、普通のファンレターでも自筆で返事を出すのに、いつも以上に、自分でも驚くくらい長い返事を書いて、サインと一緒に送り返した。 「ニール?何を見てるの?」 「リジェネ宛のファンレター。やべ、泣けてきた」 そこには、ある一人の盲目の少女が慈善団体に入り、生きることの喜びを得たという自伝がつづられていた。 「ああ、それ。僕も泣いた。一緒に、泣こう?」 「ああ」 ニールはティエリアを抱きしめて、一緒にその長い長い手紙を読んで、人の素晴らしさ、愛というものの深さに涙を流した。 「だから、さ。僕は、人間になったんだよ」 涙を流して寄り添い合う二人を見て、リジェネは天使のような笑顔を浮かべた。 --------------------------------- ただのお誕生日に、リジェネがぽんと札束を投げて、それでニールならどうするだろうって考えて、きっとどこかの慈善団体にはいって、寄付して、自分で活動しているだろうなって思って。 ティエリアは収入のほぼ全てを寄付しているけれど、リジェネは貯蓄している。 いつか、きっと、リジェネは人の愛のためにそのお金を使うのだろう。 ニール誕生日が、なんかいい話になった・・・・。 |