世界が終わっても番外編「ライルとアニュー」







「おかえりなさい、ライル」
「ただいま、アニュー」
「隣のリジェネから、手作りのケーキいただいたの。食べる?って、私もう食べちゃったんだけどね」
専業主婦になったアニューは、ある小説に応募して見事大賞を受賞し、今毎月連載している小説はアニメ化が決まっている。ティーンズ向けのライトノベルだった。
嬉しいこと続きだ。おまけに、今日がライルの誕生日だなんて、こんな嬉しいことはない。
戦時中であった頃は、まともにライルの誕生日を祝えなかった。
今のアニューは、リジェネに眠りから覚醒させられたアニュー・リターナのスペアであったが、記憶はもう、生前のアニューのものまで持っている。
魂の復活。その現象を、言葉で表すならそうだろう。
生きていたアニューと脳量子波でたえず繋がっており、記憶が共有されていると、リジェネは結論づけた。実際に、多分そうなんだろう。でも、今のアニューはもうイノベイターでもない。覚醒する以前にリジェネがあれこれ研究のサンプルとして使ったせいで、人間になってしまった。
リジェネの研究は、イノベイターを人間にすること。それは成功し、アニューは人間となった。

でも、本当の人間になれてよかったとアニューは思う。
だって、愛しいライルと置いていくこともなく、一緒に年を自然のままに重ねていけるのだから。
「愛しているわ、ライル。生れてきてくれて、ありがとう。誕生日、おめでとう」
「ありがとう、アニュー」
二人は結婚した。今、アニューの体内には新しい命が宿っている。
二人の愛の結晶だった。

「あ。おなかの子が、蹴ったわ」
「本当に?俺でも分かるかな?」
「ほら。手をあててみて」
「お。ほんとだ。蹴ってる」
二人は微笑みあい、キスをした。
「きっと、男の子ね」
「いや、やんちゃな女の子じゃないか?」
「あら、私は男の子が欲しいわ」
「いや、俺は女の子がいいな。だって、男の子なら、アニューをとられちまう」
「まぁ、ライルったら」
二人は幸せに寄り添って、笑い声をあげる。

「ハッピーバースディ、ライル。誕生日は・・・銘柄のワイン」
「お。いいね、これ」
「ごめんなさい。あまりお酒に強くなくて。カクテルならいけるんだけど」
「いいよ。兄さんと一緒にでも飲むから」

誕生日ケーキは、普通のケーキ屋で買うよりも美味しいリジェネの作ってくれたものを食べた。
「今幸せかい、アニュー?」
「ええ。世界中で一番幸せよ」
「今幸せ、ライル?」
「勿論、世界中で一番幸せだよ」

二人は、カクテルの入ったグラスで乾杯する。

甘い夜が更けていく。