「おれ、今日が誕生日なんだ、アニュー」 椅子にかけられた、アニューのポレロに話しかける。 「はは。俺、何してるんだろうな?」 涙は、もう泣きすぎて出てこない。 「もしも、さ。神様から誕生日をもらえるとしたら、アニューが欲しい」 ポレロを、そっと抱き寄せる。 それにキスをする。 いなくなったアニューの代わりに。 「ライル。誕生日おめでとう・・・・私では神ではないので、本物にあわせてあげることはできないけれど。バーチャル装置に、私の記憶からアニューのデータのロードに成功した。会うか?」 「会える・・・・のか?アニューに」 「最初にいっておく。あくまでデータだ。君が僕とロックオン、ニールと会うことを止めたように、死者と愛し合うことはできない。でも、僕は今でも時折バーチャル装置を使ってニールにあっている。どうしようもなく哀しいとき、「元気だせよ」と、その一言をかけてもらうために」 ティエリアは、白皙の美貌を哀しそうに伏せる。 「アニューに、会える。夢の中であって、声をかけてもらうようなものだ。そう、愛し合うことは推奨しない。そんなことになれば、僕がデータを消す。僕も、ニールと愛し合っているわけではない。ただ・・・会いたくなる。だから会う。ニールと愛し合っているわけではない。元気付けてもらっているんだ。バーチャル装置は、元々人の夢を叶えるために作られたもの・・・・会うか?」 「会う」 「ついてきたまえ」 ティエリアの後をついて歩く。心臓がドキドキした。アニューにまた会える。データでもいい。ただ、会えるだけでいいんだ。そう、もう死んでいるのだとちゃんと受け入れた。愛し合うことはしない。愛してると言葉には出すだろうが、バーチャル装置の仮想世界に浸るような真似はしない。 ライルは一人で仮想世界に降りた。ティエリアはいつもなら監視のために一緒に降りるのだが、今回は遠慮しておいた。 「アニュー・・・・」 ティエリアはアニューを再現するために、三日も睡眠を削ってバーチャル装置に新しいプログラミングを施したのだ。 「会って、いるのか」 「ああ」 刹那が、すっと隣にたつと、アレルヤの時のように、ティエリアを横抱きにして部屋につれていく。 「睡眠薬を飲ませても、眠ってもらう。無理をしすぎだ。今日、嘔吐していただろう。睡眠不足になりすぎだ。ここ三日、プログラミングにかかりきりで食事もまともにとっていないな。胃が弱っている。まずは睡眠だ」 「それでも・・・・ライルに、アニューに会わせてやりたかった」 刹那に擦り寄るティエリア。 「すまない」 「どうして、君が謝る?」 「アニューを殺したのは俺だ」 「それでも・・・あのときは、誰かが引き金を引くしかなかった」 刹那は睡眠導入剤を噛み砕き、ペットボトルの水と一緒にティエリアに口移しで飲ます。 「ん・・・君も、隣にいてくれ。不安だ」 「分かった。傍にいるから、安心して眠れ」 ティエリアは、深い眠りに落ちていく。 (AIマリアが、今日も皆様をご案内いたします。ライル様、マスターティエリア・アーデの命令で特殊空間への転送をいたします) ナビゲーションAIが、仮想空間に降りたライルを導く。 そこは、蒼い薔薇が咲き乱れる仮想の庭園。 テーブルと椅子が置いてある。ライルは椅子に座っていた。向かいの椅子に、アニューが座っていた。 「どう。元気で、やってる?仲間とはうまくいってる?」 「全然元気じゃない・・・アニュー、愛してる」 アニューは立ち上がると、ライルを背後から包み込む。 「私も愛してるわ、ライル」 二人は、深くキスをする。 「私が、誕生日プレゼント」 「ああ・・・・」 「刹那を撃たなかったのね。偉いわ」 アニューがライルの頭を撫でる。 「撃ちたくて・・・・撃ちたくて・・・・頭がどうにかなりそうだった」 「でも、あなたは形だけでも和解した。立派なことよ」 「アニュー・・・・・」 ライルは、穏かな時間を過ごす。 アニューの笑顔が目の前にある。抱きしめあって、キスをする。 「明日からも、歩いていける?私がいなくても」 「ああ。歩いていく」 「それでこそ、私のライルよ・・・・」 蒼い薔薇が、一斉に散った。 (アニューというデータを保存しますか?アニューに関するデータの全ては、マスターティエリア・アーデからライル様に任されています) 「そうか。アニュー、愛してる」 「私もよ」 「データの保存はしない」 (了解しました。アニュー・リターナのデータを破棄します) 「それこそ、私のライル。愛しているわ」 蒼い薔薇の花びらとなって、散っていくアニュー。 ライルは手を伸ばして、花びらの一枚まで散っていく彼女を抱きしめていた。 (通常空間へのゲートを開きました。また、ご利用ください) ライルは、バーチャル装置から出る。 「アニュー。俺は、強く生きるから」 ポケットから、アニューの遺品となったブルーサファイアの忘れな草の髪飾りをとりだして、強く握り締める。 「さようなら、アニュー。愛していたよ」 一滴の涙が、ライルのエメラルドからあふれ、頬を伝った。 バーチャル装置に背を向けて、歩きだす。 そう、アニューは俺の心の中で生きている。 だから、データとしてのアニューに元気づけてもらうのは、これが最初で最後。 「アニュー」 強く、生きよう。 そして、絶対にアニューの仇をうつのだ。 そのためにも、強く。 強く、生きて。 アニューが、最期にみせた綺麗な笑顔を、ずっと彼女が保てるように。 強く、強く。 |