空っぽなあなた







「聞こえているかな。ライル、ライル」
格納庫で、ケルヴィムを見上げていたライルに、アレルヤが声をかける。

「聞こえてるよ。なんだ?」
「あの・・・・うまく言えないんだけど、彼女のことは本当に可哀想で。僕に力になることがあれば・・・・」
ライルは、舌打ちする。
「だったら、俺に話しかけないでくれ」
「だめだよ!このまま、君は一人になって、それで戦力外になんてことになったら・・・・」
「あんた。お子様だな。だから、KY(空気読めない)っていわれるんだよ」

真っ直ぐに、ライルがアレルヤを見る。
「あんた、さ。おれが刹那を殴ってるとき、真っ先に離脱したよな。ティエリアは止めろと後ろでうるさくどなっってた。俺はマイスターとして、一番はぐれてるんだとおもってた。現実を、見ろよ。もっと、あんたも現実、見ろよ!!!逃げるなよ!!」

その言葉は、アレルヤの心臓を刺した。
「僕は、ちゃんと、現実を受け止めて・・・・」
「だったら、なんで目を背けたりする!おれはアニューって叫んで泣いて、ここ最初の一週間まるで夢遊病患者みたいだった。でも、ティエリアは俺をいたわって優しく接してくれた。一番会いたくない刹那でさえ、声をかけて大丈夫かといってくれる。はじめてだよな。アニューのことがあってから、あんたが声をかけるの」
「そ、れは・・・・」
「俺も逃げてた。でも、もう逃げない。だから、あんたも逃げるなよ。彼女のソーマって子から逃げるな。そして俺の分まで、守りぬけ!」
ライルが、その体でアレルヤを抱きしめた。

「ラ、イル・・・・・ごめんなさい。一番哀しいのはあなたなのに、なんて言葉をかければ分からなかった」
アレルヤのオッドアイの瞳から、涙が溢れ出した。
「なぁ、教官殿。見ていて、あんたが否定の言葉を投げないってことは、いずれアレルヤに何かいうつもりだったんだろ」
セラヴィのコックピットから出てきたティエリアは、ゆっくりと階段を降りてくる。

「ライル。アレルヤ。刹那は今いない。僕たち三人の力で、トレミーを守るんだ。僕たち・・・・私たち三人にしか、守れる者はいないんだ」
歩み去るティエリアの後ろを、ライルが追う。



「あ、りがとう。がんばって、みるから」


アレルヤは涙を流しながら、アリオスの機体を見上げる。
現実から目を背けてばかりの自分を、叱咤してくれる声が心のどこかで欲しかったのだ。
それが、一番辛いライルからかけられるなんて。
「もう、逃げないから。ソーマ。愛してるよ。逃げない、から」
涙を制服の袖でゴシゴシこすっていると、ちょうどソーマが通りかかった。

「なんだお前。何処か怪我でもしてるのか?」
「ち、違うよ」
「ふん、男の癖に泣くなんて、情けないやつ」

アレルヤは、銀の乙女に向かって手を伸ばし、立ち去っていこうとする相手を後ろから抱きしめる。
「何をする!」
「もう、逃げないから。ソーマ。君を愛してる」
ソーマは、眉を顰めたあと、アレルヤに向き直った。
「そんなの・・・・最初から、知ってる!」
「そう」
二人は、その日はじめて手を握った。
マリーがソーマに変わってから、はじめて。