寒い冬はもう過ぎ去ってしまった。 今は、日差しも暖かい春。 それでも、まだ冬の名残が残っていて、吹きすさぶ風は時折冷たかったりする。 ヒラヒラと、何かが降ってきた。 ティエリアは、それを手で受け止める。 「桜の花びらだ」 通る道の先を見ると、並木の桜が全て満開だった。 ヒラヒラ降る桜の雨は、まるで桜雪。 雪のように、ふわふわと漂ってゆっくりと降ってくる。風に流されて、散っていく姿はとても幻想的だ。 日本では、桜が有名だという。アイルランドのこの地でも、桜は植えられている。 「桜ですか・・・・綺麗ですね」 桜並木の通り道を歩きながら、隣にいるニールを見上げる。 ニールは笑って、こういった。 「俺には、お前さんのほうが綺麗に見えるけどな」 その言葉に、ティエリアは紅くなった。 「桜のほうが、きっと綺麗です。こんなにも美しい・・・・」 「ティエリア。綺麗だよ」 桜がひらひら散る中で佇むティエリアは、まるで桜の精霊だ。 抱き寄せられ、ニールはティエリアの桜のような唇にキスをする。 「ニール・・・・」 耳まで真っ赤になるティエリア。 「愛してる。桜の下で、愛を誓う。桜は、日本では、桜の下で告白すると・・・・ってなものがあるらしい。学生が卒業シーズンによく先輩なんかに告白してたりするもんだ」 「くわしいですね」 「刹那に聞いた。本当かどうかは、分からないけど」 「桜の下で、約束を。ニール、あなたを愛しています」 「俺もだよ」 ヒラヒラと、いくつもの桜の花びらが二人を祝福するように降り注ぐ。桜雪のように。 「キィィィ!!!」 リジェネは、二人から数歩離れた場所を歩いて一緒に散歩していたのだが、止まった二人に、どうしたものかと見守っていたのだが、その甘い甘い空気に溶かされることもなく、逆に燃えてしまいそうな嫉妬にかられていた。 ボキボキ。 近くにあった桜の木の枝を折るリジェネ。 「我慢限界!」 リジェネ、リミットブレイク。限界突破。行動介入に移ります。 「ティエリア、さぁ、こんなバカほっといて二人で先いくよ!」 ニールの腕からティエリアを攫い、連れて歩く。 ティエリアは、リジェネの髪についた桜の花びらをとってやる。 「リジェネも、綺麗だよ」 ティエリアにそういわれて、リジェネは桜の木を見上げる。 「当たり前だよ。桜も綺麗だけど、僕とティエリアはもっと綺麗なんだから。散ることがない」 「でも、散るから桜は幻想的なんだよ?期間限定だから」 リジェネの隣で、ティエリアは魅惑的に微笑する。 綺麗過ぎると、リジェネは思った。シンメトリーを描く同じ容姿であるはずなのに、なぜかティエリアのほうが美しい気がするのは、気のせいではないだろう。 「ティエリア、愛してるよ」 「僕も、リジェネを愛してるよ」 「俺も俺も」 「ニールになんかに愛されたくないよ!」 リジェネは、ニールの足を蹴り飛ばす。 ティエリアがリジェネに注ぐのは、家族の愛だけど。でも、それでもいいさ。 だって、幸せなんだから。 リジェネは、ティエリアと手をつないで歩く。ニールが、反対の手をティエリアとつなぐ。 ヒラヒラと、音もなく散っていく桜。 散って消えてしまうから、神秘的なのだ。いつまでも咲き続けていれば、こんなに美しいとは感じない。 「らららら〜〜」 歌いだしたティエリアを中心に、三人は並んで歩く。 桜の花びらが、三人を包み込んで、散っていった。 |