禁忌でもいいから「心から愛した人」







次の日、ライルがソファで憂鬱そうに座っていた。
「どうしたんだ?」
「酒、やめる。煙草もひかえる。女もやめる」
「そんな突然、やめるといっても、やめられるものではないだろうに」
ティエリアが、小さく笑った。

「それでも。ふらふらする毎日が、飽きてきた」
「それはそうだろうな。することもなくふらふらしても、何もならない」
「もう一度、CB機関にでも勤めるかなぁ・・・」
やる気もなさそうに、ライルが呟く。
「君の人生だ。好きにするといい。一緒に暮らしている限り、生活費の問題はない。僕が全額負担する。友好費も、いつもの額で問題はないだろう?」
「あんた、さぁ。一緒に暮らしているのに、やっぱり俺に兄さん重ねないのな」

「私は、強く生きたいと願った。君にニールを重ねるような行為はしない。それは君もニールも冒涜する行為だ。私はニールはニール、ライルはライルだとちゃんと分かっている」
「ああ。それ、すっごい助かるよ。重ねられると、俺も流石に傷つくから」
「疲れたので、寝てくる」
「ああ。なんか、最近寝てる時間多くないか?」
「さぁ。体の機能が低下しているんだろう。今度、CB機関で精密検査を受けるつもりだ」
「あんたも、人のこといえないな。自分の体の健康に執着していない」
「イノベイターである僕は、人と体の作りが違うから・・・・」
ティエリアはそれだけ残すと、二階にあがってベッドで眠ってしまった。

ライルは、することもなく、どうしたものかと天井を仰ぐ。
そして、今日はミサのあるいつもの日だと気づく。
寝てしまったティエリアを放置して、ライルは車に乗り込み、教会に出かける。
「あれぇ?こんなとこに、教会なんてあったっけ・・・・」

リーンゴーン。
鐘が鳴り響く。

「クスクスクス」
教会の中で、子供の笑い声がした。
その声は、アニューにそっくりで、ライルは思わず中に入る。
ステンドグラスが太陽の光を浴びて、地面にいろんな色の影を落とす。
教会は、神父もシスターも、そして誰も信者の姿はなかった。
「おかしいな。確かに、子供の声が」
「こっちよ」
背後から聞こえた声に、ライルは振り向く。

「誰だ、お前」
ライルの第六感が告げていた。
目の前にいる、石榴色の髪にエメラルドの瞳をした少女が、人間ではないと。
「あなたの望みを、少しだけ叶えにきてあげたの」
「ふさげてるのか?」
「あなたは望んだ。強く、強く。地上の天使が、同じように望んだ。だから、次元をこえてこの世界までやってきた」
バサリと、少女の背に六枚の白く輝く翼が現れる。

ライルはカトリック教徒だったが、神も天使も信じてはいなかった。
「嘘だろ・・・・」
ライルは、これが夢でないのかと思った。何度頬を抓っても、結果は同じだった。
「家に、帰ってごらんなさい。あなたが、心から愛した人がいるから」
それだけ告げて、天使の少女は消えてしまった。

ライルは、あとずさる。
リーンゴーン。
教会の鐘が鳴る。
ライルは何度も自分の頬を叩き、それが現実であることを確認すると、一目散に車のある場所にいくと乱暴に運転して、家に帰る。
家の中には、誰かがあがった形跡はない。ゆっくりと、二階のティエリアが寝ている寝室に入る。
そこにいたのは、ライルが心から愛したアニューだった。



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