禁忌でもいいから「さようなら、アニュー」







リーンゴーン。
教会の鐘が鳴り響く。
太陽の光を受けて、地面にはステンドグラスの聖天使ジブリールの姿が浮かんでいた。

「私、幸せよ。愛しあえてるから」
「ああ。俺も、幸せだ」
ライルは、ずっと涙を零していた。

「泣かないで、ライル」
「アニュー・・・・愛している」

ふぁさり。
音もなく、白い純白の羽が、教会の天井から降ってくる。
老神父の姿は消えていた。

変わりに、聖母マリア像の前に、六枚の翼を持った少女が立っていた。

「幸せ・・・だよ・・・・アニュー・・・・」
「私もよ、ライル」
二人は、深くキスをした。何度も何度も。
「アニュー・・・・どんな形でも・・・もう一度あえて、俺は幸せだから」
「そう。あなたの幸せは、私の幸せ・・・・」

「違う世界では、私は三日間の奇跡をあげたけれど。あなたには、ほんの少しだけ・・・・。ごめんなさい。でも、それでも・・・あなたは望んでいた。魂が。叶えるつもりなんかなかったのに、どうしてかしらね・・・・私まで、悲しい」
少女は、エメラルドの瞳から涙を零した。
それは、光の雫となって消えた。

「アニュー・・・・愛してる・・・消えないでくれ・・・どうか、俺も連れて行ってくれ・・・・」
「ライル。それはできないのよ。分かって・・・・」
「アニュー!!」
ライルは、涙を零しながら、アニューの体を抱きしめる。

「あなたに、選択権をあげる。そのアニューを宿しているのは、地上の天使。ティエリア・アーデと呼ばれる者。その者の命が、今のアニューを形作っている。このまま、アニューを地上に留めたい?ティエリアの命を削らせて。その選択をすれば、ティエリアはいなくなるわ。この世界から。ティエリアの命が、アニューとなる」

少女の天使は、表情もなくそう問いかけてきた。
そうだ。これは、似ている。
かつて、ティエリアがバーチャル装置のデータとして、アニューを再生させ、そのデータを自分に託した時に。

「アニュー。愛している」
「私もよ、ライル。あなたをもっと愛したいわ」
「俺もだ、アニュー」

ライルは、涙を零し続けていた。

「答えは、決まった?」

「最初から、決まっている」

「そう」

少女の天使は、とても残念そうに涙を零した。
「これだから、罪深き人間たちは・・・・・」

「さようなら、アニュー。少しでも会えて嬉しかった。アニューに、アイルランドの町を見せてあげれた。夢だった結婚式もできた。自暴自棄になってたんだ。俺は変わるよ。今からでも遅くないから」
ポッ、ポッ。
ライルの腕の中で、綺麗な微笑を浮かべたアニューは、ライルを抱きしめたままアメジスト色の光になって溶けていく。
ポッ、ポッ・・・・空気に、溶けていく。そう、あの時のように。
「アニュー。愛しているよ。今も、そしてこれからも。でもな、ティエリアを犠牲になんてできない。俺にとって、ティエリアは・・・・・大切な、人なんだ」

「そうよ、ライル。やっと、分かってくれたのね。人を愛する心・・・あなたは今、ティエリアを愛している」
「アニュー・・・さようなら」
「さようなら、ライル」
アニューの一滴まで、ライルは抱きしめて離さなかった。

リーンゴーン。
教会の鐘が、狂ったように鳴り響いていた。



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