23話補完小説「フェニックス」







意識が一つに溶けていく。
ヴェーダへと。
たゆたう波のように、おしては引き返す。それは、一言で例えるなら膨大な知識の海。そう、海だ。情報というデーターに埋没した。

ティエリアの肉体から離れた精神は、消えることなくヴェーダへと繋がった。
リジェネ・レジェッタがリボンズとのヴェーダとのアクセスを切ったことも原因の一つだ。
銃を向けられ、致命傷を負った体は心肺機能が停止した。

虚空を漂う体。だだの肉の塊。ティエリアであったもの。
走馬灯さえ走らなかった。
だが、はっきりと見えた。

ヴェーダに続く道の途中にロックオンが立っていた。
「私を、連れて行くならもう少し待ってください。もう少しで、全てが終わる」
ティエリアは、ロックオンに向かってはっきりと言い放った。
不思議だ。あれほど彼の元にいくことを願っていたのに、今は否定できる。
「それでいい。お前は進んでいくんだ」
「ロックオン?」
ロックオンは、ティエリアを抱きしめると、エメラルドの光となって消えた。
そして、ティエリアの精神はそのままヴェーダと直結した。
リジェネの声も聞こえる。

地上からだろうか。随分遠い脳量子波だ。
(ねぇ、ティエリア。ヴェーダと一体化しても、君はそのままヴェーダと一緒に朽ちることはできないよ。マスター・イオリア・シュヘンベルグは君のスペアを三十体は用意していたからね。どの体にかで、目覚めるだろうさ。現に、僕もリボンズにスペアの一体をやられて殺されたけど、こうして地球で生きている。脳量子波が繋がっている限り、スペアがある限り僕らは不滅のフェニックスさ)
(その話は後で。リジェネ、力をかしてくれ)
(いいとも。君の頼みであれば、喜んで)

「今のはなんだ・・・僕の脳量子波を乱して・・・」
リボンズは眉を顰めた。
(この時を待っていたよ)
「リジェネ・レジェッタ?ヴェーダが僕とのリンクを拒絶した?まさかシステムを」
(リボンズ君の思い通りにはさせない。そうだろう、ティエリア?)
リジェネは、地上のとあるホテルの一室で、銃弾に倒れたままの肉体を経由して脳量子波を放っていた。
フルパワーの脳量子波。カタカタと窓ガラスが音を立てて震えていた。

リジェネの脳量子波の手助けを受け、ティエリアは閉ざしていた血に濡れた瞳を金色に輝かせ、開ける。
セラフィムガンダムがティエリアの精神に呼応し、トライアルシステムを執行した。ティエリア・アーデのみに許される、ヴェーダとリンクした機体全てを制御下における特別な能力。


刹那は、ヴェーダ内に進入に、血を宙に舞わせたティエリアの体を見つけ、その完全なる死を確認して、そっと抱きしめると目を瞑る。
「敵は必ず討つ」
「勝手に殺してもらっては困るな」

ティエリアは余裕で、ヴェーダの光を明滅させる。
リジェネの力をかりて、完全にティエリアはヴェーダと意識が融合した。
そして、刹那にイオリア計画の全てを語って聞かせた。

「ところでティエリア。お前はこのままなのか?」
「それは、僕も聞きたいところだ」
「ヴェーダを取り戻したまま・・・そこにティエリアがいる。死んだわけではない。だが・・・・俺は、こんなティエリアは嫌だぞ。いつものティエリアがいい」
「なら、取り戻してみせるか?君の力で」
「取り戻す。どんな手を使っても」
刹那は本気だった。
「はは・・・最高だよ、君は。心配しなくても、僕の体にはスペアがある。今、地上で僕のスペアが目覚めた。リジェネと一緒だ。全てが終わったら、迎えにきてくれ。誰でもない、刹那、君が、僕を」
「迎えにいく。リボンズを倒して戦いが終わったら、俺がティエリアを迎えにいく。そして、連れて戻る。まだ皆と別れるわけにはいかないだろう」
「そうだな」

「ちょっと。ティエリア、本気なの?」
目覚めたばかりのスペアNOは、007。オリジナルと同じ番号だった。
リジェネは、次に目覚めるであろうティエリアの肉体をカプセルから出し、ホテルのベッドに寝かせていた。
ゆっくりと、ティエリアの目が開く。
「地上は、嫌いだ」
「そういう問題かい?」
「口惜しいな。ヴェーダと一体化はできるが、それでは皆を助けることはできても、刹那の力にはなれない。刹那・・・・・」
「とりあえず、座ったら?脳量子波でリボンズを苦しめるって手もありだよ」
リジェネに椅子を勧められ、座る。
フェニックスのツイン。死してさえも蘇る。スペアがある限り、何度でも。

「刹那。待っているから。僕は生きる。僕を、迎えにきてくれ」
ティエリアは、ヴェーダと再び一体化しながら、意識を集中させる。

そう、イオリアがリジェネとティエリアの二人に翼の刻印を描いたのは、天使と堕天使という意味だけではない。
それは、白と黒のフェニックス。
イオリアは、二人をフェニックスの双子と呼んでいた。遙か遠い昔。
二人は、フェニックスの如く蘇る。そして、人類が歩く道をイオリアの代わりに見守っていくのだ。