君が呼ぶ僕の名







トレミーは地球に降りた。
リボンズ・アルマークの死により、人の運命はまた人に委ねられた。
まだ、戦いの火種が全て拭い去られたわけではない。CBは今後も活動を続けるだろう。ヴェーダを奪還した今、残るのは人類の意志の統合。それも全ては人の手によるものだ。

「刹那はどうした?」
皆が刹那の姿を探している。今回の戦いの一番の立役者は、刹那だ。
刹那はヴェーダルームに篭っていた。

「僕は思う、刹那。人の意志の統合も、そしてこれからの人の行く先も全て人の手によるものだと。そして、その先を見守るのが、僕とリジェネ、二人のイノベイター亜種、イノベイドの役割ではないだろうかと」
「俺はこのまま、完全に世界から戦争がなくなるまで戦う」
「完全にとはいかないだろうが、ほぼなくなるだろうさ。それでも人は争い合う。それは人の本質だからな。そうなると、CBは永遠に解散できないな」
「人の本質か・・・。CBは、世界に受け入れられるだろうか?」
「それは分からない。もともと争いを引き起こした起因は我々だ」
ヴェーダと意識が一体化しているティエリアと、刹那は会話していた。
「時間だ。ダブルオーライザーで外出する」
「どこへ?」
刹那はその質問に答えず、そのまま去ってしまった。
「相変わらず、先走りすぎだな」
ティエリアの声が笑っていた。

刹那はダブルオーライザーに乗り込む。
赤ハロを乗せて、そのまま起動する。目指すはアイルランド。


白い薔薇が揺れていた。
墓標に刻まれた名前はロックオン・ストラトス。

「あなたの仇を、ライルがうちました。家族の仇も。そして戦いはひとまず幕切れです。ずっと見守っていてくださってありがとうございました。どうか、心から安らかな眠りにつけるように。僕が愛したロックオン」
無性の少女は、空を見上げる。
蒼い蒼い。

墓標に、また白い薔薇の花束が捧げられる。
「ロックオン。安らかに眠ってくれ。俺は、あんたの代わりではなく、俺の意志でティエリアを愛する」
「刹那」

「迎えに来た。帰ろう。皆が待っている」

差し伸べられる手。
ティエリアは、笑顔で手を伸ばす。

「ロックオン。また会いにきます。僕も、道を選びました。このまま仲間たちと、生きていきます。刹那と歩きます・・・」

墓標の影から、ヒラヒラとエメラルド色の蝶が姿を現す。
「ロックオン・・・・」
二人の間を縫って、蝶は大空へと消えていった。

「帰ろうか。トレミーへ」
「ああ」

イノベイターとして。イノベイドとして。CBとして。ガンダムマイスターとして。人間として。
生きよう、この世界を。
見守るのではなく、一人の人間として生きよう。

「遅いよ」
「リジェネ」
「いつの間に・・・」
刹那とティエリアが、ダブルオーライザーの元にくると、そこにはティエリアとシンメトリーを描く少年が立っていた。
「リボンズを殺してくれてありがとう。お陰でいくところがなくなったよ。責任とって、CBのところにつれてってね。それから、ティエリアとの交際はまだ許したわけではないからね」
「リジェネ、素直になったらどうだ」
「うるさいよ、ティエリア」

リジェネとティエリアは黒と白のフェニックス、そして天使だ。イオリアが作ったスペアがある限り、死してもその意志体が「死」を求めない限り、死ぬことはない。
ヴェーダと一体化しているティエリアであったが、新しいスペアの肉体にすでに精神は宿っている。
ヴェーダの中のティエリアは、リンクしたティエリアだ。

「帰ろう。リジェネもティエリアも。CBへ。トレミーへ」
刹那が二人をコックピットに乗せる。

「うわ、狭っ!」
「仕方ない」
「ダブルオーライザー、トレミーに向けて発進する」

青空に溶けて小さくなっていく機体を見上げていた影があった。
エメラルド色の蝶が、人の姿になったのだ。
「それでいいんだ。生きていけ、ティエリア。そして幸せになれよ。俺の分まで。愛してるよ」
エメラルドの隻眼の青年は、それだけいうと、エメラルド色の光となって消えてしまった。

歩いていこう。
まだ、物語は続いている。
さぁ、君と歩こう。

君が僕の名を呼ぶ。
ロックオンを忘れることはないだろう。あんなにも愛した人だ。まだ愛している。
君は、そのままでいいと言ってくれた。
無理に変わる必要はないと。
でも、少し少し僕も変わっていく。
過去に縛られることなく、生きてみよう。
君が僕の名を呼ぶ。

「ティエリア」
笑顔で、刹那はティエリアを抱きしめる。

君が僕の名を呼ぶ。
僕は答える。

「刹那」
綺麗な微笑を、ティエリアが浮かべる。

さぁ、この広い世界を自由に羽ばたいて、生きていこう。
僕たちの物語は、まだ終わってはいないのだから。