「刹那。クッキー焼いてみたの。食べる?」 トレミーの廊下で、機嫌のよさそうなフェルトが刹那に声をかけた。 「ああ」 「あげる」 綺麗にラッピングされた包みをよこされる。 「ありがとう」 自然と、刹那の無表情な顔に柔らかな笑みが浮かぶ。 それに、フェルトは見惚れてしまった。刹那の笑顔は珍しく、いつもティエリアと一緒にいてもそうそうおがめるものではない。 「どうした?」 「ううん、なんでもないの」 慌てて手を振る。 「待て。髪に埃が・・・」 刹那の手が伸びて、フェルトの髪をすくっていく。顔が近い。フェルトはドキドキした。綺麗な顔が近くにある。ティエリアのような美貌ではないが、刹那も綺麗な顔立ちをしている。 「じゃあ、私これで」 去ろうとした時、刹那の頭に緑色の物体が弧を描いて遠くから飛んできた。 ボス! ティエリアのジャボテンダーさんだ。 ティエリアも一緒にクッキーを作ったのだが、ティエリアのは消し炭になってとてもじゃないが食べれたものではなかった。 機嫌はそれで悪いのだろう。 「刹那ああああ!フェルトは嫁にあげないぞ!」 どうも、ティエリアのほうから見たとき、さっき髪をさらわれた瞬間がキスしたように見えたのだ。 ティエリアは、さっとフェルトを背後に匿う。 「いくら君でも、フェルトはだめだ。お付き合いするなら、ちゃんと順序をふまえなさい」 ティエリアにとって、フェルトは友人以上の存在だ。 「ふふ」 「フェルト?」 「ティエリア、好きよ。刹那も好きよ」 フェルトはティエリアの頭を撫でると、ティエリアにも綺麗にラッピングされた包みを渡し、上機嫌で去っていくのだった。 「ティエリア。ジャボテンダー、投げたりしちゃだめよ。また目のボタンどこかにいってしまうわ」 去り際に、フェルトがふりかえって忠告した。 ティエリアは、廊下に落ちていたジャボテンダーを拾う。 「フェルト、明るくなった。きっと刹那のお陰だ」 刹那がCBに帰ってきてから、ロックオンの悲しみに時折ひたっていた彼女も変わってきた。 「守るさ。フェルトも、ティエリア、お前も」 ティエリアは、素っ頓狂な顔になったかと思うと、声もなく笑った。 「僕は守られるほど弱くはないつもりだ。そうだな、では僕はジャボテンダーさんでも守ろうか。というのは冗談で、フェルトは僕も守る」 「ティエリア、紅茶入れてくれないか。飲みたい」 「そうだな。せっかくクッキーをもらったんだし」 刹那とティエリアは、いつものように歩きだす。 フェルトが作ってくれたクッキーは、美味しかった。 |