溶け合えばいいのに









深い口付けのあと、そのままベッドにもつれあって倒れた。
ピンクのカーディガンを脱がされ、長袖のワイシャツに手がかかる。
ボタンを一つ一つ外していく長い指を、ティエリアは見ていた。
ワイシャツのボタンが完全に外され、腕に引っかかるような形になった。

ティエリアは、石榴の目で、ロックオンを見上げた。

ズボンに手がかかり、ジッパーを下ろされる。
そのまま、脱がされた。
下着姿になってしまったティエリアは、ロックオンの服を脱がす。
ジャケットを脱がし、Tシャツを脱がせた。
アレルヤのような筋肉はないが、それでも無駄のない均整のとれた素肌が露になる。
白人であるロックオンの肌は、人種のせいかわりと白い。
それよりももっと、むしろ病的なまでの雪の白さをたたえたティエリアの肌を、ロックオンの唇が這う。

最初は、唇に唇を重ねるだけ。
それはもう、儀式的なものになっていた。
ティエリアが、自分から口を開いて、ロックオンの舌と舌を絡める。
「・・・・・ふ」
いつまでたっても、慣れることはない。
ロックオンの唇が首に移動して、痕を残すようにきつく吸われた。
そのまま、鎖骨に痕を残される。
「すき、です」
ただひたすらに、ロックオンのエメラルドの瞳を見上げる。

石榴の瞳に、金色の輝きが混じる。
ロックオンの手が、ベストにかかった。
怯えた眼差しで、ティエリアがロックオンを見上げる。
抱き寄せられて、唇を奪われた。
「ん」
ベストを脱がされ、肌寒さに身を震わせる。

くびれた腰のラインを確かめるように、ロックオンの手が優しくなで上げる。
肩甲骨に唇がおちた。
そのまま、背骨に沿って、唇が這う。
ロックオンの唇が、胸に移動した。
「あっ」
ティエリアの口から、あえぎ声ともとれる甘い声が漏れる。
ティエリアは、爪をロックオンの肩に食い込ませた。
女性化が進んでしまった胸をいじられ、ティエリアはロックオンの肩に噛み付いた。
「ふあっ」
軽い眩暈がした。
ロックオンの手が、下肢に伸びる。
白い太ももを、唇が這う。
膝を足で割られた。
「やっ」
ティエリアが顔を両腕で交差し、見えないようにする。
ロックオンの腕が、ティエリアの腕をとる。

ティエリアの紅色の唇に、ロックオンの唇が重なる。
「愛してる」
エメラルドの眼差しが、ティエリアに注がれる。
金色に光った光彩が、収縮して、金色と石榴の色が交じり合う。
真紅の色を含んだ金色の瞳で、ティエリアは涙を零す。
恐怖からくる涙ではなかった。生理的なものでもない。

ロックオンは、ティエリアの涙を吸い上げた。
自分の裸の胸に、ティエリアの手をとって、心臓の真上に置かせた。
トクントクンと脈打つ鼓動に、ティエリアが瞬きをする。
「愛しています。滑稽なほどに、あなただけを」
ティエリアが、ロックオンの首筋に、いつもされているようにキスマークを残した。

ロックオンの手が、ティエリアの無性を確かめるように、下肢に触れた。
男性の象徴をもたぬ下肢は、だからといって、女性のように濡れているわけでもない。
男でも女でもない。
いっそ両性具有であったなら、まだ救いがいがあったかもしれない。
ロックオンの手が、奥に伸びる。
そのまま、硬く閉ざされた秘所に、指が触れた。
未熟なその場所は、女性化が進んでいるとはいえ、あまりにも未熟すぎて到底男性を受け入れられるようなものではなかった。
「あ、あ、あ」
指が、内部を探るように蠢いた。
女性器をもたぬはずなのに、秘所は少しづつ濡れてくる。
「はう」
ティエリアの背が弓反りにのけぞった。
きつくシーツを掴む。
生理的に溢れた涙を、ロックオンが吸い上げる。
秘所を責める指が、ティエリアを限界まで追い詰める。
視界が、真っ白になった。
まるで、頭がスパークしたかのようだ。
足の指が、シーツをひっかいた。

覚えさせられてしまった、禁断の味。
ロックオンは、ティエリアを抱き寄せると、口付けした。
ティエリアは、気を失っていた。
ティエリアを追い立てると同時に、ロックオンも果てていた。
ティエリアの未熟な秘所は、とてもではないが、ロックオンを受け入れられない。
それを承知の上で、ロックオンはティエリアと肌を重ねる。
無理やり引き裂いてまで、ティエリアと体の関係を持とうとは、ロックオンは思わなかった。
体をつなげなくても、お互いに絶頂までいくことはできた。

ある意味、背徳の味がした。
無性の中性体であるティエリアの秘所は、とても未熟で、最初は指をいれただけでも血を流した。
大分慣らされ、今は指二本程度なら受け入れることができたが、女性器をもたぬ秘所は、濡れることさえ困難であった。
男性同士のセックスのような行為は決してしない。
それは、ティエリアが嫌がるからでなく、ロックオンが決めたことだった。
そんなセックスを覚えてしまえば、無性であるとはいえ、簡単に体を繋げてしまうことができる。
汚されることを何より恐れているティエリアには、そんな行為は恐怖以外の何者でもない。

今している行為だって、ある意味ティエリアを汚している。
だが、ティエリアも求めてくる。
ロックオンも男だ。愛した相手と肌を重ねていれば、仕方のないことなのかもしれない。

気を失ってしまったティエリアを抱えて、シャワーを浴びせるためにロックオンも服を脱いだ。
ティエリアの体も髪も綺麗に洗い、清める。
ロックオンも、ボディソープで体を洗い、髪を洗って、バスタブに湯を張って、気を失ったティエリアを抱いたまま浸からせ、体温が通常より低いティエリアが、行為のせいで大分熱を持っていることに気づく。
それは、普通の人間なら微熱の体温であったが、ティエリアの平熱を考えれば高熱であった。

ロックオンは、自分の行動を強く反省した。
お互い求め合ったままに肌を合わせたが、ティエリアが無性の中性体であり、そういった行為には向いていないのだということを思い知らされる。
それなのに、ロックオンは自分を止められないでいる。
ティエリアを大切にしたいのに、求められるままに、肌を合わせてしまう。

「ごめんな、ティエリア」
下着を着せ、上からパジャマを着せた。
ロックオンも、パジャマを着る。
地上に降りたときにかった、二人お揃いのパジャマだった。

タオルを取り出して、冷水でひやし、ティエリアの額に乗せた。
冷房をつける。
寒かったが、ティエリアの体温を冷やすためだ。
ティエリアの体の構造は普通ではなく、体温が高熱になった場合、普通は汗をかいて体を冷やすものだが、ティエリアは汗をかかない。高温の体温は、本人の意思でコントロール可能なのである。
だが、ティエリアは気を失っていて、体温コントロールは気を失う前のままになっている。
室内をひやすことで、ティエリアの体温も下がった。
いつもの平熱に下がったのを確認すると、その唇に口付ける。

「ん・・・・ロックオン?僕は・・・ああ、また気を失ってしまったんですか」
起き上がろうとするティエリアを阻んで、ロックオンが冷房をきる。
ロックオンは、冷えた空気に毛布を羽織っていた。
「無理させてごめんな。途中で止めればよかったな」
「いいんです。僕も求めましたから。浅ましいですね、僕は」
「それなら、俺のほうがもっと浅ましい。中性であるティエリアに、あんな行為を強いている」
「愛しています。いいんです。あなたになら、僕は全てを捧げれる」
「ティエリア」
「傍に来てください。もう、体温のほうは大丈夫ですから」
伸ばされる手は、とても美しく、全く荒れていなかった。
伸ばされた桜色の爪にキスを落として、ロックオンは自分が被っていた毛布をティエリアに被せた。
「寒いでしょう。あなたも、中へ」
誘われるままに、ティエリアのベッドに入る。
毛布の温もりと、ティエリアの少し冷たい体温が心地よかった。
二人は、そのまま抱き合って眠りについた。