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完全に大破したケルヴィムのコックピット。
額から血を流したライルは、痛みにうめく。
「俺は・・・・ここで、終わるのか」
宙を漂う、ケルヴィムの残骸。
敵である一人は倒した。
アニューの声が聞こえた。力を、貸してくれた。
もう身動きもほとんどとれない機体が、敵の刃を避けた。
「アニュー」
ライルは手を伸ばした。
アニューの魂が、意識体となってライルの手を握り締めていた。
「ライル、がんばったわね」
「アニュー。俺はもう、やることはやった。連れて行ってくれ」
「だめよ。あなたはまだ生きなければ」
「アニュー?」
「あなたは、生きて、そして変わっていく世界を見守って。私の分まで」
「アニュー」
ライルは泣いた。
暖かな温もりに包まれて、ライルは一人静かに涙を零す。
「泣かないで、ライル。私は、いつでもあなたの傍にいるから」
「ああ。愛しているよ、アニュー」
「私もよ、ライル。ずっとずっと愛しているわ」
「アニューに、アイルランドを見せるよ」
「ええ。連れて行って」
そこで、ライルの意識は途絶えた。
気づくと、トレミーにケルヴィムの機体ごと回収され、治療カプセルに入れられていた。
「アニュー。愛してる」
ライルは、微笑んだ。
彼女は、きっと、今も自分の傍にいる。
ライルは、ガンダムマイスターとして一生を過ごすことを決意した。
アイルランドの地を踏む。
「アニュー。ここが、アイルランドだよ」
家族の墓の隣に、アニュー・リターナの名前を刻んだ墓標を建てた。
「俺はガンダムマイスターとして生きる。いつか、迎えにきてくれよな」
サングラスをとって、ライルは青空を見上げる。
アニューの墓には、忘れな草のブルーサファイアの髪飾りを埋葬した。
形見は彼女のピンクのポレロだけになってしまった。構わないさ。
アニューは、いつでも俺を見守っていてくれてるんだから。
「いつか。俺も、アニューに会いにいくよ。それまで、俺はガンダムマイスターとして世界を生きる」
ライルは、アニューの墓にも花束を置いて、後ろを振り向くこともなく去っていく。
そして、トレミーに乗り込む。
入り口が開くと、刹那が待っていた。
手を伸ばされる。その手を、ライルはしっかりと握り締め、そして二人は微笑み合う。
揺ぎ無い仲間。
もう、ライルと刹那の間には、アニューを殺したという恨みはない。
「分かり合う」こと。
それが、アニューが最も望んだことだから。
俺たちは分かり合えた。
「刹那、俺はこれでもお前のこと戦友として好きだぜ」
「ライル。俺もだ。仲間だ、俺たちは」
そんな二人を、フェルト、ミレイナ、イアン、ラッセ、ミス・スメラギが笑顔で見守っていた。
分かり合うことの大切さ。それは、愛したアニューが教えてくれたこと。
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