ティエリアは汗が嫌いなので、シャワーを浴びた。 ニールとライルもシャワーで汗を流す。ティエリアの場合、ボディーシャンプーで体を洗って髪もシャンプーとリンスで洗ってしまうあたり、徹底していた。 「はぁはぁ。クンクン・・・・少年の香り・・・・」 下校間際の教室で、グラハム先生が刹那の体操着のにおいを嗅いでいた。 「駆逐する。変態は駆逐する!」 ガンダム部なる怪しいクラブ活動が終わった刹那は、戻ってきてグラハム先生が自分の体操着の臭いを嗅いでいるのを発見して、グラハム先生を窓の外に投げ飛ばした。 「愛しているぞおおお少年んんんんんんんーーーーー」 グラハム先生は、そういい残して消えていった。 「どうしたの、刹那」 「・・・・・・・・・」 「刹那?」 ティエリアが、刹那の持っている体操着を覗き込む。 「うわ!」 「エンガチョだな、刹那!」 「きったねー!」 ニールとライルは、刹那に同情した。 体操着は、グラハム先生のよだれにまみれていた。 しかも、ピーに使ったような痕跡も見受けられる。白濁した液が、ところどころについていた。 「刹那、新しい体操服用意してあるよ」 コンピューター部を見学して戻ってきたリジェネの一言に、刹那が顔をあげる。 「本当か!?」 「ああ。あの変態に、君は随分と悩まされているようだからね。いろいろと、スペアは用意しておいた。ブレザーの予備もあるよ」 「すまない、恩に着る」 刹那はそういうと、体操着を袋の中にしまうと、焼却処分することにした。 今までは泣く泣く洗って使っていたが、気持ち悪い。新しいのがあるならば、捨ててしまおう。ばちは当たらないはずだ。 「聞いたよティエリア。スタメンにいきなり入部して選ばれたそうだね。3Pシューターの星って、みんな騒いでたよ。あと、君にセクハラした先輩は投げ飛ばしておいたから」 「ありがとう、リジェネ。僕が投げ飛ばすと、部内問題になるから、できなかったんだ。リジェネ、大好き!」 ティエリアは、リジェネに抱きついた。 「僕も大好きだよ」 二人はキスしている。 「なぁ、兄さん、あれっていいのか?」 「まぁ、双子だし親愛のキスだろ。いいんじゃないのか。別にティエリアをとられるわけじゃないし」 「あまいよ、兄さん。リジェネなら、絶対兄さんからティエリアを取り上げそうだ」 「はははは。でも、実際ティエリアと付き合って、リジェネの性格も分かったし。リジェネはああ見えていい子だっりする。兄弟愛は麗しきかな、だ」 「ただいま〜」 「おかえり、アレルヤ」 「もうーくったくたー。しごかれたー」 アレルヤもシャワーを浴びたのか、髪が濡れていた。 「ティエリア、ちゃんと髪ふきなさい」 「あい」 ニールがタオルで、滴ったままのティエリアの髪をふく。ティエリアは、リジェネからもらったクッキーを食べていて、返事が子供のようになっていた。 「ああもう、かわいいなお前さんは」 抱きしめてキスすると、クッキーの甘い味がした。 「甘い」 ティエリアが紅くなる。 「ニール、リジェネが睨んでるよ」 「構わんさ」 そのまま、ティエリアの髪をふいたタオルを首にかけて、それぞれ帰宅の準備をする。 「ああ、ごめんなさいジャボテンダーさん、今日は構ってあげられませんでした。また明日」 席に座ったままのジャボテンダーを抱える。 刹那は鞄の中を確かめる。すると、中に「果たし状」なるものが入っていた。 刹那はそれをびりびりに破いて捨てた。 「果たし状」はグラハム先生からのラブレターだ。ほぼ毎日、どこかに入っている。 「じゃあ、帰ろうか」 ティエリアが歩きだす。 リジェネが横に並び、ライルとニールがその後ろに続き、刹那とアレルヤがその後に続いた。 「僕、マリーと帰る約束してるから、これで」 「あら、アレルヤ。いいの?」 「うん、みんな車で迎えがきてるから」 「そう。じゃあ、帰りましょう」 マリーとアレルヤは手を繋いで先にいってしまった。 下駄箱のところにくると、薄い紫の髪の女生徒がいた。 「アニュー」 「ライル。待ってたの。数学、やっぱり赤点とったわね。今日は私の家に泊まりなさい。お父さんもお母さんも旅行でいないから。家庭教師してあげるわ」 「うわー、簡便」 ライルは、それでもアニューと並んで歩き出す。 「じゃあ、兄さん。俺、アニューの家に泊まっていくから。父さんと母さんによろしく」 ライルは、ティエリアとリジェネの両親を父さんと母さんと呼ぶようになっていた。それはティエリアとリジェネの両親の願いでもあり、ニールと刹那も同じように父さんと母さんと呼んでいる。 「お迎えにあがりました、お嬢様、お坊ちゃま、ご友人様方」 高級車のドアが開く。帰りはみんな一緒の車だ。 一番後ろの座席が開いて、美しい女性が現れた。 「母上!」 「母さま!」 リジェネとティエリアが、驚く。 「いやね、リジェネにティエリアも。そんなに驚くことないじゃないの。ホホホホのホ」 「さぁ、帰りましょう、刹那、ニール・・・・あら、ライルは?」 「ライルは、今日は友達の家に泊まるって」 ニールが答えると、リジェネとティエリアの母は微笑んだ。 「あらあら。困った子ね、ライルったら。今度、そのお友達の家に遊びに行かなくては」 「いや、母さんそれは簡便してくれ」 「ホホホのホ」 「母さん、早く帰ろう」 刹那が、女性の手を握った。刹那は幼い表情になっていた。 「かわいい刹那。大丈夫よ、私は何処にもいかないわ」 「母さん・・・・」 刹那は、母と呼ぶ人に抱きしめられる。 誰よりも家族の愛に飢えていたのは、ガンダムマイスターの中で刹那かもしれない。 「母さん・・・ありがとう」 刹那はそのまま目を瞑る。 母は、車に乗り込むと刹那の頭を膝の上に乗せて、優しい声で子守唄を歌ってくれた。 リジェネもティエリアも、その子守唄を子供の頃よく聞かされたものだ。 「今度は、失わない」 刹那が呟くと、母は聖母マリアのように慈悲に溢れた微笑を刹那に向けた。 血の繋がらないリジェネとティエリアの母は、確かにニール、ライル、そして刹那の大切な母親でもあった。 |