(あは〜〜ん。いけない子。お姉さまがお仕置きしてあげるわ) (お姉さま、大好き。私だけを見ていて) (エンゼル、ずるいわ!お姉さまはわたくしのものよ!) (違う、お姉さまは私のもの!) (あたしのものなんだから!) (ぎゃいぎゃい) (ケンカは止めなさい。みんなまとめてかわいがってあ・げ・る) ・・・・・。 ・・・・・・・。 ・・・・・・・・・。 じー。 突き刺さる視線に、おそるおそるロックオンが振り返る。 そこには、刹那とお揃いのパジャマを着て、首にふわふわのスカーフを巻いたティエリアが立っていた。 その後ろには、同じようにティエリアとお揃いのパジャマを着て、頭に季節遅れのサンタ帽を被った刹那が立っていた。 ティエリアは、無言の石榴の瞳で、画面であはんあはんと繰り返される百合アニメーションを見つめていた。 今日、寝る前にロックオンと対戦した格闘ゲームの、脱がしモード100%達成のボーナスアニメーション画像であった。 かわいい声やらなまめかしい声が飛び交い、15禁な百合モードが発生している。 一人の女王様的お姉さまをめぐる、ハーレム状態だった。 じー。 じとー。 突き刺さる視線が痛い。 「こんな真夜中に何をしているのかと思えば、ロックオン・ストラトス、欲求不満か?」 刹那が、憐れむような眼差しをおくる。 それに、ロックオンが首を振った。 「ち、違うんだ、ゲームでみんなに勝つために腕を磨いていたらこうなったんだ」 「腕を磨くために、いちいち女の子キャラを格闘で脱がせていたんですね。隠し技や隠しキャラが目当てではなく、やはりボーナスの15禁百合アニメーションがめあてだったったんですね。万死に値します」 ティエリアが、石榴の瞳で百合アニメーションを見た後、ロックオンを見た。 (ああ、エンゼル、かわいいわ。天使なのに、とってもえっちね) (お姉さま。お姉さま、残酷に私を殺してください。残酷に私を愛して) (お姉さまはわたくのものなんだから。エンゼルになんかわたさないわ!ツルペタのくせに!) (うるさい。残酷に殺されたい?残酷に死ね!) (だめよ、エンゼル、けんかしちゃ) (はい、お姉さま。お姉さま、残酷に素敵。残酷に私を愛して。私だけを、愛して) (わたくしも愛しております。エンゼルなんかよりも、深く深く) 画面では、百合アニメーションが終わることなく展開している。 もはや、格闘ゲームではなく、百合ラブゲームでいいのかと思うくらいに、ジャンルが変更している。 選択肢まででてきて、百合ラブアドベンチャーゲームだ。 「変態」 「へんたい」 刹那とティエリアが声を合わせた。 「違う、誤解だああああ」 そういいながらも、ゲームの電源を切るような真似はしない。そんなことをしてしまったら、セーブしていないので、せっかくのボーナスアニメーションが消えてしまう。 ロックオンも男だ。 とってもかわいそうな男にしか見えなかったが。 「そのエンゼルという少女、ティエリア・アーデにそっくりだな。萌葱色のゴスロリに、黒のヘッドフリル。今日、ティエリアがしていた格好だな。胸もツルペタだし、しゃべり方もどこか似ている。眼鏡キャラだし、髪型も同じだし、髪の色まで同じだ。違うのは瞳の色と声か?」 刹那の言葉に、ティエリアが刹那の首をガクガクと揺さぶった。 「誰がツルペタだ!」 「お、お、お、ち、つけ」 ガクガクと揺さぶられているせいで、声が変な風に区切れる。 「ああ、分かった。俗にいう、コスプレというやつか。今日ティエリア・アーデがしていた格好は、コスプレだな。そのゲーム、結構人気あるしな。格闘ゲームがリアルなのは普通だが、脱がしテイストや着せ替えテイスト、それに百合、アドベンチャーモードまでついているから、特に男性に人気が高い。エンゼルというキャラは、中でもお姉さまのファーナと姫のシャリアに匹敵する人気だ」 無表情に話す刹那であったが、お前、詳しいなと、ティエリアもロックオンも心の中で激しくツッコミを入れた。 (お姉さま〜) いつの間にか、ティエリアの隣から移動して、刹那がロックオンの隣にきていた。 そして、コントロールを押して、勝手にゲームを進めていく。 「こ、こら、刹那やめなさい。これは、刹那みたいなお子様がしちゃいけないゲームなんだ!」 そんなものを夜中に、刹那の家でやってるお前はなんなんだ。 「エンゼルを落としたいんだろう。クリアの仕方は知っている」 「落とせるのか、こいつ。格闘ゲームなのに、そこまでミニゲーミにこだわってんのか、このゲーム」 「ああ。だから、売れている。この選択肢はここだ」 「なんでそんなに詳しいんだ」 「前に持ってたからだ」 ポカリと、ロックオンが刹那の頭を殴った。 「何をする」 「このゲーム15禁だろうが!」 「俺はもう16歳だ!」 「16歳でも、お兄さん的には問題がありまくりだ!」 二人は、兄弟のようにじゃれあいながら、ゲームを進めていく。 それに、ティエリアが絶対零度の眼差しを送って、二人の背後までやってきた。 「ティエリア、ご、誤解だ、コスプレなんてさせてない!決して、この隠しキャラの衣装と似ていたから、あの服を買ったなんてそんなこと、絶対にないから、だから、ああああああ」 もはや、ロックオンはいっていることが支離滅裂だった。 「ティエリア・アーデもプレイするか?」 刹那が、無表情な顔で、自分の隣に座れと指差す。 ティエリアは、電源をひっこぬいた。 ブッ。 「ひでぇ!」 「何をする、ティエリア・アーデ」 怒る二人に、ティエリアは無表情だった。 「万死に値します」 ティエリアは、ゲームの中のエンゼルという少女のボイスそのままの声をだした。 人類最高の声帯は、少しであれば声音を変えることができる。 エンゼルというキャラを演じている声優の声は、ティエリアが出せる女性ソプラノの声の一種に似ていた。 ティエリアは、呆然を見上げてくる二人を、冷凍庫より冷たい目で一瞥した。 「残酷に殺してあげる」 ぽかんと、ロックオンが見上げてくる。 きゅん。 なんだろう、この胸のときめきは。 刹那は思った。 「ティエリア・アーデ、もう一回言ってくれ」 「ティエリア、もう一回さっきの声で何か台詞いってくれよ」 「残酷に死ね!このスケベどもがあああああ」 ティエリアは、近くにあったクッションやら時計やら小物いれやらを、二人に向かって投げつけた。 プンプン怒るティエリアが、重そうな本を二人の頭にむかって投げた。 「残酷に死ね!僕は、アレルヤと一緒に寝る!二人で残酷に寝てろ!」 そういい残して、ティエリアはトタタタっと、軽い足取りでアレルヤが寝ている二階にかけあがっていった。 ロックオンと刹那は、重い本の角が頭にぶつかって、伸びかけていた。 「ティエリア・アーデ、萌えることをしてくれる」 「確かに、萌えた」 ロックオンと刹那は、萌えながら、我が人生に悔いなしと、仲良く伸びた。 薄れいく意識の中で、ティエリアが萌葱色のゴスロリを身に纏い、黒のヘッドフリルをつけて、石榴ではない蒼い瞳で「残酷に殺してあげる」と、そのキャラ定番の台詞をして、背に6枚の翼を出して天空を羽ばたいていた。 翌朝、起きてきたアレルヤが発見した時、二人は仲良く伸びたまま寝ていた。 そして、刹那の字で、「エンゼルに、残酷に殺された」という遺書を発見したという。 |