忘れな草の花畑







ティエリアとニール、それにリジェネはトレミーを降りてアイルランドにきていた。
「へぇ。ここがニールの実家」
物珍しそうにいろいろと探索するリジェネは、ついてくるときかなかったので、仕方なく一緒にトレミーを降りた。リジェネにはいろいろと恩がある。

「準備できたか、ティエリア」
「はい」
ティエリアはユニセックスな服を着て、鞄をさげてもう外出の準備万端だ。
「リジェネは?」
「もうできてるよ」
シンメトリーを描く二人は、人ではないほどに美しい。外に出れば、誰もが振り返る。壮絶なる美貌は、氷の花のように艶やかで、けれど花に例えるならリジェネは棘のある薔薇、ティエリアは百合だろう。
同じような性格をしている二人であるけれど月日の流れは、愛は人を変える。
ティエリアは人間として生き、仲間たちに見守られてとても柔らかくなった。
そう、ニールが最初にそうさせたのだ。ただの天使を、人間にしてしまった。一方のリジェネは、天使というより性格からして子悪魔のほうが似合っているかもしれない。

「植物園なんて、また陳腐なとこ選んだもんだね」
「思い出の場所なんだ。昔、ニールが連れていってくれた」
「ふーん」
そう、かつてニールはティエリアをアイルランドの植物園に連れていき、そこにある忘れな草の花畑を見せてくれた。今日もそれを見に行くのだ。

「さぁ、二人とも車に乗り込んで」
ニールの言葉で、ティエリアとリジェネは車に乗り込む。
そのままニールが運転して、程なくして植物園についた。
中に入場し、いろんな花を見て廻る。そして、例の忘れな草の花畑にやってきた。
「へぇ。これが忘れな草。ちっさいね。かわいい」
水色の、空色の花をつけた忘れな草がいっぱいに広がる空間。

ニールは座り込む。
その隣にティエリアが座って、肩に頭をもたせかける。
「またあなたと一緒に見れるなんて、思ってもいませんでした」
「俺もだ」
二人は寄り添いあう。
「もう離さない」
「離れない」
二人は深く唇を重ね、そのまま花畑の絨毯に寝そべった。

「・・・・・・まぁいいか」
リジェネは本当は恋人同士の二人の邪魔をしてやろうと思ったのだが、二人があまりにも幸せそうだったので、同じように寝転んで硝子張りの天井から差し込む優しい陽光を見つめていた。

忘れな草。何度でも何度でも。
あなたのことを忘れないから。