ティエリアは、ロックオンの部屋で、ミス・スメラギに呼ばれたロックオンを脅かそうと、クローゼットの中に身を隠すことにした。 そこから大声を出して、ロックオンに飛びつこう。 考えるだけでわくわくする。 ロックオンのことだから、心臓が止まるくらいに驚いて、「うぎゃああああああ」とか悲鳴をあげるに違いない。ロックオンは、ホラーやサスペンスも苦手だし、急に驚かされることも苦手だ。 「ロックオンを驚かすのだ」 クローゼットを開けると、ロックオンの服が何枚もハンガーにかかってぶらさがっていた。 服からはロックオンの匂いがする。 まるで、お日様のような匂い。 ロックオンにいつも抱きしめられるが、それがティエリアは大好きだった。 大好きな大好きなロックオン。 誰よりも愛しい人。 ふと、クローゼットの傍らに何か緑色の物体を発見する。 「なんだろう?」 手を伸ばしてそれを広げる。 悲鳴をあげるのは、ティエリアの番だった。 「うわあああああああ!!!!」 トレミーの廊下で、自分の部屋の前まで来ていたロックオンは、ティエリアの悲鳴に驚いてすぐに中に入ると、いつものように無断でティエリアが自分の部屋にきていた。 いつでもきたいときに来ればいいといっているので、無断なことには怒らない。 「どうした、ティエリア」 ティエリアは固まっていた。 手には、ジャボテンダーの着ぐるみ。 「あ、やべっ」 やべぇ。 やべー。 どうしよう、俺。 どう言い訳しよう。 ティエリアに、この前のジャボテンダ星からの使者は、実は着ぐるみを着たただの人間でしたと、真実を言うしかないのだろうか。 ティエリアは、石榴色の瞳を数回瞬かせると、ロックオンに向き直った。 「ロックオン!ジャボテンダーさんの新たな生態を発見した!」 「な、何を発見したんだ?」 「ジャボテンダーさんは、大きくなるごとに脱皮するんだ。そう、蛇のように」 「はい?」 相変わらず、ティエリアの思考はフリーダムだ。フリーダムガンダム?ジャスティスガンダム?いやそれは置いといて。 「これは、ジャボテンダーさんの抜け殻。脱皮した証拠だ!今度出す論文にまとめなくては」 「おいおい、論文って何を書いてるんだ」 「勿論、ジャボテンダーさんについて。CBの学会ですでに発表した。みんな、笑いをこらえたような変な顔になっていたが。何故だろうな?僕はジャボテンダーさんを片手に、ジャボテンダーさんのことについていろいろと話していたのだが。通販カタログを配ったら、その学会に出席した過半数の人間がジャボテンダーさんを購入した。こうして、僕のジャボテンダー教は広まっていく」 「なにその怪しげな宗教!?」 「ちなみに、お布施も受け付けている。ジャボテンダーグッズがお布施だ」 「それ、普通お布施っていわなくない!?」 「ロックオン、細かいことは気にしていると十円はげになるぞ」 「いやならないから!」 ティエリアは、脱皮したジャボテンダーの着ぐるみを放り出すと、ジャボテンダーを愛しそうに抱いて、それをブンと振り上げると、ロックオンに投げつける。 ベシベシと何度もロックオンを殴ってから、ティエリアは満足したのか大人しくなった。 「ちなみに、これもジャボテンダー教の教えだ。愛する人にはジャボテンダーで殴れ。なんて素晴らしい。流石はジャボテンダーさん」 「そういうもんなの!?」 ロックオンとティエリアとジャボテンダーの愉快な日常は、いつでも面白くおかしい。 |