その子の名前はティエリア・アーデといらしい。 少し言葉ったらずで、見た目よりも幼い印象を受けた。 「あれ、私の温度感知センサー」 ティエリアが指差したそれを、刹那とアレルヤが破壊する。警報が鳴り響いた。 「くそ、いくぞ!」 ティエリアを背負い直して、ロックオンは駆け出した。 その日は、いつもは海外を忙しく飛び回っている代表が、幸運にも代表室にいた日だった。何事かと、代表が廊下に飛び出して、そこで逃げ出したロックオン、ティエリア、刹那、アレルヤと出くわした。 「君たちは・・・・ガンダムマイスター候補?何故こんなところに。ここは立ち入り禁止区域だ」 ロックオンは、背負っていたティエリアをおろすと、代表の前につきつけた。 「CBは人体実験を行っている!この子が、この廊下の奥の地下の牢屋に入れられていた!見ろ!」 羽織らせていた上着をとる。 白い服の袖に隠されていた細い手を袖をめくって、出くわした老紳士に見せる。 いくつもの注射の跡。中には鬱血したものまである。 「私、帰らないと。明日も実験あるから」 「実験?」 老紳士は眉根を寄せた。 「知らないのか、じいさん」 「そんなもの、この基地では行っていないはずだ」 「でも、実際にこの子はここのドクターと名乗る連中から投薬事件を受けて、今はアルビノになる実験だそうだが、髪の色が銀色になってしまったそうだ」 「俺がはじめに見た頃は、髪は紫紺だった。目の色は石榴色だったけど」 刹那が補足する。 アレルヤも、みんなをフォローする。 「この子たちは嘘をいう子じゃありません。それに、このティエリアって子、ガンダムマイスター候補じゃないんですか!?この腕にはめたブレスレットがその証です!」 ブレスレットをはめた細い手首を、アレルヤは老紳士の前に持ってくる。 「やだ・・・・問題おこすとぶたれるの・・・いや」 ティエリアという子は、震えていた。 「それが事実なら、なんということだ。私は、なんという過ちを見過ごしていたのだ!」 老紳士は涙を流して、ティエリアを抱きしめる。 「何・・・・・私にご用ですか?私に人権はないので、どうぞお好きなようにしてください」 その言葉に、ロックオンは悔しくなって涙を流した。 「お前は人間だ。人間だ!」 老紳士の反対側からティエリアという白亜色の、アルビノの少女を抱きしめる。 警報は、すぐにおさまった。 逃げ出した実験体が、代表と出くわしてしまったからだ。 本当は、実験体であったティエリアは小さな部屋に閉じ込められていた。でも、誰かと会話がせめてしたいので、牢屋にしてくれと自分から言い出したのだ。食事を運んでくる相手と、何度か会話できてそれだけでティエリアは幸せだった。 何もない白一色の世界から、窓のある牢屋に移された。窓の外から青い空を眺めるのが大好きだった。前の小さな部屋は鳥篭のようで、窓さえなかった。牢屋の窓は開閉可能で、手を伸ばすと緑の葉をつけた木の枝を触ることができたし、小鳥が朝になるとティエリアに会いにきてくれた。 その小鳥に捧げるように、ティエリアは歌った。 よく歌う子だったので、ティエリアを実験体扱いしていた者達もその歌声がもれないように牢屋から続く場所には開閉性のドアを作ったりして防音装置変わりにしていた。 NEXT |