比翼の鳥U







「何度でも繰り返す。愛していると」
「ガガガ・・・・・ティエリア、愛しているよ・・・・ガガガガ、この機能使えないな、ちゃんとのこるのかなガガガガ・・・・」
ノイズまじりの合成音。
そこにはっきりと記録されているのは、ロックオンの遺言ともいえる言葉。
ロックオンは、ハロに言葉を託した。

例え俺が死んでも、お前は生きろ、と。
それはなんて残酷な言葉。
言葉に背いて、彼の元にいこうとした。
でも結局叶わなかった。
神など、ティエリアは信じない。願っても願っても、残酷な結末しか与えてくれないから。

「僕も愛しています」
ハロの録音モードをきる。
だめだ、このままでは。また挫折してしまう。
ティエリアはバスルームに入ると、熱めの湯をかぶった。
ザーザーと、何時間もその音だけが響く。
バスルームで放心していた。気づけば、2時間も湯をかぶったままぼうっとしていた。

「何をしているんだ、僕は。あの人はこんなこと望んではいない。あの人は、僕に幸福になれと」
バスルームからあがって、水気をふきとるとバスローブに着替える。
どうしようもない気分だった。

窓からは、明の明星が瞬いている。
ルシファーは、神に弓引いて堕とされた。ロックオンの魂も、きっと堕ちているだろう。何人も人を殺したのだから、仕方のないことかもしない。
そう、ヘブンになどいけないのかもしれない。
冥福を祈っても祈っても、彼はヘルファイアにいるのかもしれない。
もしも、自分の傍に在ってくれるのなら、どんなに嬉しいことか。
でも、それを確かめる手段なんてない。だって、ティエリアはイノベイターでも、人の魂までは見ることはできないから。
「泣くな」
ぐっと、こらえる。
バスローブを脱ぎ捨て、裸になる。
かつては、何度もロックオンに無性でありながら愛された体。
今は女性化の進行は止まった。膨らみかけた未熟な胸。何もない下肢。白すぎる肌は、それでも女神の化身のようだ。
そう、天使なのだティエリアは。
かつて、その背中に六枚の翼をイオリアは作っていた。人として生きる未来には不要のものと切り取ってしまったが、名残が肩甲骨にある。翼を象った紋章。
天使でありながら、天使ではない。天使であったなら、ロックオンと会うこともかなうだろうに。

制服に着替える。
どうしようもない気持ちがぐるぐるしていて、そのまま刹那の部屋に訪れた。
刹那は、すぐに全てを察してティエリアを部屋の中にいれると毛布でくるみ、そして髪の水分をタオルで拭き取った。
「安定剤を飲むか?」
「いや、いい。ただ、寂しい。どうしようもなく。傍にいてくれ」
「分かった」

二人は、魂の双子。比翼の鳥のように寄り添いあう。