刹那は、アザディスタンに来た。一人でだ。 見違えるように復興した国。刹那の故郷であるクルジスタンはアザディスタンによって滅ぼされた。 目指す場所は、王宮。 執務に忙しかったマリナは、ふいの来訪者に声を失った。 「・・・・・・」 ターバンを巻いて、顔が見えないようにしているが、マリナには分かった。 ガードの合間を縫って、やってくるような不適な人物は、マリナの頭には一人しかいない。 「やっぱり、生きていたのね、刹那!」 マリナは皇女らしく立派な服を着て、宝石なども身につけていて一国の皇女らしかった。 マリナに抱きしめられて、刹那は顔に巻いていたターバンをとると、彼女の首に巻いた。 「アザディスタン皇女、マリナ・イスマイール。今年には、しかるべき相手との婚礼を控えているそうだな」 「それは・・・・でも、あなたを愛していたわ」 「俺も、お前を愛していた」 「でも、気づいたの。私の愛は平等に向けられる愛だと。刹那を恋愛感情で愛せないと」 「おれも気づいた。マリナの愛は、俺にだけ向けられたものではないと」 「お願い。最後に、キスして?」 「ああ」 刹那は、マリナに触れるだけのキスをする。 それが神聖な儀式であるように。 「アザディスタンは見違えるように復興した。これからも、未来を歩んでいけ」 「刹那は?」 「俺はCBに残る。もしも世界に戦争の火種があれば、また武力介入する」 「そう。愛していたわ」 「俺も愛していた」 「さようなら」 「さようなら。今はもう、大切な女性がいる」 「そう。その人と、幸せに」 「マリナも、どうか国のためだけでなく、幸せになってくれ」 「ええ」 二人は数秒見つめあう。 それだけで、終わった。 マリナは、去っていく刹那を止めない。皇女なのだ、自分は。 刹那からもらったターバンを大事にしまう。 「どうか。刹那にも未来があらんことを」 マリナと刹那は、こうして終わりを告げる。 でも、二人の間には確かに、形は違うけれど愛はあったのだ。 それは本当。 マリナはこのまま、アザディスタンの皇女として一生を歩んでいくことだろう。 刹那とは、生きる世界が違う。 アザディスタン皇女マリナ・イスマイール。 彼女は終生、ずっと赤いターバンを首に巻いていたという。 |