宇宙総帥であるリジェネ・レジェッタは長く編まれた金色の髪を指で弄ぶ。 「髪の色をかえて正解だったよ。あの子自身だと間違われることも少ない。髪を伸ばしたのもその理由だ。瞳の色も変えた」 リジェネの瞳の色は、石榴色ではなく綺麗な紫と青のオッドアイだった。 「そのオッドアイ、異種からの贈り物でもあるのだろう?」 「そうだ。宇宙総帥の名をかんする者を神秘的に見せるためだそうだ。すでに容姿から絶世の美貌であるのが、イオリアの作った僕たちツインの条件だからな。人は僕たちを一度見ると忘れることはできない。今の髪や瞳の色だと余計に忘れられないだろうな」 「今頃、どうしているかな、ティエリアは」 刹那が、それまでふせていた人物の名前を出す。 そう、ずっと彼らはティエリアのことについて会話をしていたのだ。 かつては、リジェネの前に宇宙総帥として君臨し、宇宙コロニー開発の先駆者となったティエリア。 150年間も総帥の地位にいて、ついには疲れ、そしてずっと信じ続けている「出会い」がないことに絶望してコールドスリープしたティエリア。 その「出会い」とはニール・ディランディの魂をもつ者との出会い。 宇宙で散ってしまったニール。かつてのティエリアの最愛の人。ティエリアはニールをずっと愛し続け、そして四年間トレミーを一人で率いてCBを復興した。 ティエリアは言っていた。 いつか、ニールの魂をもつ者とまたこの世界のどこかで出会うのだと。 刹那やリジェネと生きた。そして、トレミーの者たち全ては人間ゆえに死んでいった。 その死さえも乗り越えて、宇宙総帥としてコロニー全体の代表者となり、異種との対話も積極的に進めていた。そのティエリアが挫折したのは、今から130年前。 もう何百年も生きていた。 異種から、その「出会い」は絶望的だといわれたのだ。 異種。人はそれを精霊、あるいは天使と呼ぶ。 人よりも遙かに優れた生命機能をもつ高次元生命体。異種は、すでに対話の前に人類と何度も接触し、そして奇跡というものをおこしていた。 それは高次元生命体が持つ特殊な力でもあった。 だが、奇跡などそう簡単に何度でもおこるようなものではない。異種の中でも、それは極めて稀なケースなのだ。 絶望したティエリア。 天使にニールとはもう会えないと告げられたようなものだ。 そうして、いずれは死を迎えるカプセルでコールドスリープに入り、総帥の座は補佐であったツインのリジェネに託した。 リジェネはティエリアのことを思い、コールドスリープを自分もした経験から限界まで眠らせていた。 だが、その限界がきたのが今から20年前。 ティエリアを失いたくがない故に、リジェネはティエリアを覚醒させた。 ティエリアはリジェネを責めなかった。 そして、総帥となることも拒み、地球に降りてひっそりと人間の中に紛れて生活をはじめた。 リジェネは何度も会いにいったが、総帥という地位がそれの邪魔をする。 刹那もCB代表という地位があり、なかなかティエリアと会えずにいた。 ニールの故郷、アイルランドで町を点々としながらティエリアは生きる。 その瞳に、かつての輝きはもうとっくの昔に失われていた。 NEXT |