静かなる海「静かなる海を越えて」







それはどれだけ時を刻んだかもわからない。
静かなる海は、いつも金色に光っている。押しては引いて返す浜辺を、ティエリアは歩く。
世界の「記憶」のロックオンが、その後ろをついて歩いてくる。
一度は封印した世界の「記憶」のロックオン。でも、どうしても感情がおさえきれずに人知れず何度も会いにきた。優しい彼。そう、「記憶」の中の彼。

「きもちいいか?波」
「ええ」
静かに会話をする。
金色の海は、いつでも穏かに耀いている。太陽はいつも快晴で、青空がどこまでも広がっている。
記憶の中の彼が、最後に手を伸ばしたのは青い地球というなの母なる星。
「歩き疲れただろ。おぶってやるよ」
「ありがとうございます」
ティエリアは、素直にロックオンの背中におぶってもらった。


静かなる海。

静かなる海をこえて、魂は巡り合う。

そう約束した。魂で結ばれている。


「なぁ。今、幸せ?」
「ええ。とても」
「そうか。良かったな」
嬉しそうに、世界の「記憶」の中のロックオンは微笑んだ。


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「こらーー!!起きろ、ティエリア!!」
「ふにゃ〜」
「ふにゃーじゃないだろ、ティエリア!!!第5銀河系の大統領から電話だぞ」
「またですか。いいかげん、電話からPCアクセスにかえてほしい・・・電話なんて古びたもの使ってるの、あの大統領くらいだ。それが家にあるってのも問題だけど。ふにゃ〜」
ティエリアは、とても懐かしい夢を見ていて、べろべろに溶けてふにゃふにゃしていた。
もう名を知らぬ者はいないくらいに有名な、かのティエリア・アーデ総帥の日常は以外とだらしない。もう12代目になるティエリア・アーデ。ずっと、同じ容姿に無性という条件があり、そして同じティエリア・アーデという名がつけられた。記憶はもう、昔のティエリアのものから11代目のものまでものすごく蓄積されている。ヴェーダに初代から11代までのティエリアという名の総帥の名と記憶は、別にある。
「俺だけのルシフェル」
ティエリアに声をかけてきた相手に、ティエリアは微笑んでその胸を揉んだ。
「うわー揉むな!揉むなあああ!まだ慣れてないんだから。なんでよりによって女なんだ!ティエリアは無性のままなのに!」
「さぁ。初代の僕はあなたと誓った。どんな姿をしていても、いつかこの世界で出会うと。たとえあなたが女でも、僕はいっこうに構いません」
「俺は問題おおありだ。男だった過去の記憶もったまま女だなんて・・・ある意味最悪だ」
「僕とまたであったことを後悔していますか?」
「いいや。前なんて犬だったし。ティエリアはそのままなのに。そのまえなんてミトコンドリアで、その前はまぐろ、その前はウィルスの一種で、その前は食虫植物だった。ここまでくるのにすっごい苦労したんだぜ?」
「あなたという人は・・・華奢な美人なのですから、その男言葉をこのさいなおしてはどうですか?」
「無理いうなよ。愛してるぜ、ティエリア」
目の前の華奢な美人の瞳の色は昔と同じ色のエメラルドだ。肌は褐色で、髪の色は金髪と昔の原型を留めていないが、確かにティエリアが愛した「彼」なのだ。
再び、この世界で出会った。もう結婚もした。一緒にずっと暮らしている。失うことがないように、彼女に遺伝子操作をかけて不老不死にした。
「なぁ。また、金色の海の夢でも見てたのか?」
「ええ」
「昔の俺の名前・・・なんだっけ。ロックハン・ストライプ?」
「ロックオン・ストラトスです」
ティエリアはゆっくりと教える。
かつて、ロックオン・ストラトスだった、最愛の魂と、そして記憶まで受け継ぐ、今世界で最も愛しい人に。
「そういえば、刹那がまたやらかしたそうだ。第2銀河で空母3つ落として捕まったとさ」
「またか。刹那もこりないな。同じ不死であるのなら、もう少し穏かに過ごせばいいものを」

静かなる海に、もうティエリアもロックオンもいない。
こうして、時をこえて再び出会えたのだから。


               静かなる海 The End
                                       Presented by Masaya Touha