硝子細工の小鳥「この瞬間が永遠なら」







ロックオンが倒れたのは、それからしばらくのことだった。
疲労からだった。
ティエリアの拒絶は収まらず、ロックオンは疲労困憊していた。ティエリアが逃げ出さないようにと、ティエリアが眠っている時はなるべく起きていた。
ライルが訪ねてきて・・・・荒れ果てた家の中の光景に絶句した。

「兄さん、兄さん!!」
「ああ・・・・ライルか」
目覚めると、そこは病室だった。点滴の管を見ながら、急いで飛び起きようとしたロックオンは、冷静に戻ってべっドの中でせきこんだ。
「兄さん・・・ティエリア、その言っちゃ悪いけど・・・・施設に入れたほうがいいんじゃないのか」
「だめだ。絶対だめだ。手放さない」
「でも、このままじゃ兄さんが死んじまう。胃潰瘍だって。・・・このまま入院だ」
「家に帰る!」
「無理だって兄さん!」
「ティエリアが、ティエリアを置いていけない。守るって誓ったんだ、守るって」
「大丈夫だから、ティエリアは今ミス・スメラギが保護してる」
「・・・・・・・・・そうか」
ロックオンは再度せきこんだ。血を吐いた。
「兄さん!」
ライルはナースコールをした。そのまま、ロックオンの意思とは正反対に、ロックオンは入院を余儀なくされた。
ロックオンは恐れていた。
CBの手にティエリアが渡れば、処分されるのではないかと。
ティエリアはもう、世界では死んだ存在なのだ。違うティエリアが世界ではティエリア・アーデと認められている。
ティエリアと籍をいれたときだって、偽名だった。

「大丈夫。兄さんが退院するまではティエリアは俺が面倒みるから」
その言葉に、心からロックオンは安堵した。
「ああ、お前なら安心できる」
「でも、本当にもう一人のティエリアっていたんだな。しかもあんな風で・・・・なんともいえないよ。それから、兄さんが殺した相手はなんとかCBで闇に葬ることができた。裁判とかいざこざはないから安心してくれ」
「ああ・・・・なぁ、ライル」
「うん?」
「ティエリアはな、硝子細工の小鳥って絵本が大好きなんだ。あれを、寝る前に読んでやってくれ」
「でも、ティエリア暴れて手がつけられなかったぞ」
「絵本読めば落ち着くから」
「うん、分かったから今は休んで」
「・・・・・・・ああ」
そのまま、ロックオンは深い眠りについた。

2ヶ月も入院した。
ライルは言葉通り、ずっとティエリアの面倒を見てくれた。
「お帰り」
おずおずと、ティエリアが我が家に戻ってきたロックオンに声をかける。
「只今」
ロックオンは笑顔でティエリアを抱きしめようとするが、ティエリアは逃げ出す。
「なんにもしない?なんにもしない?いじめない?いい子にしてるから、絵本また読んでくれる?」
「ああ、何度でも読んでやるよ」
ライルは多忙なため、もうトレミーに帰還した。
「ほんと、ありがとうな、ライル」
忙しいだろうに、毎日病院に顔を見せにきてくれたライル。ああ、愛しるよ、ライル。お前がいてくれてよかった。
「今日は変。いつもと違う?」
ティエリアには分かるらしい。
同じ顔をしていても、ライルとロックオンが別人だということが。
「あ」
「あ?」
「あい、し、テル・・・・」
もじもじと、ティエリアはロックオンの顔をのぞきこみながら、そういった。

「もっかい、言ってくれ」

「あい、し・・・て、りゅ」
「もっかい」
「あいすてる」
「もっかい」
「あいすてるー!」

ロックオンは、ティエリアを抱きしめた。思い切り。
「痛いの!」
「ああ、ゴメンな」
キスをする。ティエリアは前のように拒まなかった。ライルが、精神医のところにつれていって、ティエリアのトラウマのケアをしたのだ。何度も病院でリハビリもまた行った。
その成果だった。

ああ、生きてて良かった。
「俺も愛してるよ、ティエリア」
たとえ、愛しているという言葉がうまくいえなくたっていい。
ティエリアの口から、再びそんな言葉を聞けるとは本当に思わなかった。

この瞬間が、永遠なら────


NEXT