硝子細工の小鳥「終幕のあとで」







じっと、墓に刻まれた名前をみる。
ロックオン・ストラトス、そしてその妻ティエリア・アーデ。
永遠の愛に眠ると刻まれた墓標。普通だったら、名前と死んだ年月しか記載しない。
今のロックオン・ストラトスはティエリアの中ではライルだった。
そうではない彼の双子の兄のロックン・ストラトスとティエリア・アーデが死んだ。
二人はひっそりと、生きていた。そのロックオンの存在は皆知っていたが、もう一人の僕の存在はみんな知らなかった。事情を知ったライルだけが知らせていたようだった。

「ばかなあなた。僕のために、命を絶つなんて」
僕は、涙を零していた。
「でも、ありがとう。ティエリア・アーデを最後まで愛し続けて、守ってくれてありがとう・・・・そう、今思い出した。僕は、ロックオン、あなたがいなくなるから記憶を消されたんだね。あなたをあんなにも愛していたのに、あなたは僕を置いて、もう一人のティエリア・アーデを選んだ」
ティエリアは墓に刻まれた名前を確認するように、文字をなぞる」
「僕も、あなたのティエリアになりたかった」
白皙の頬にあふれた涙は止まらない。
「あなたの愛が欲しかった。あなたを愛する、あなたに愛されるティエリアでありたかった」
「ティエリア」
刹那が首にマフラーを巻いてくれた。
「でも、でも時は動いている。僕は生きている限り、その命を無駄にはしない。あなたが守ったティエリアの分まで、幸せになります.刹那と」
ティエリアは、刹那と手を繋いで歩きだす。

それは、ほんの些細なティエリアのくせ。
誰が仲のよい人間と歩くとき、ティエリアは手を繋ぐくせがある。

墓の下に眠る二人は、確かに幸せだったのだ。
不幸でなど、あるはずがない。どんな困難があっても、それでも二人は幸せだった。

「刹那。僕が先に死んだら、君は僕の後を追うか?」
「追わない」
きっぱりと断言した。
「それでこそ、僕の刹那だ」
刹那との関係は恋人でもあり親友でもある。

「でも、あの二人にはあれが最高の選択肢だったんだろう。二人とも、安らかな顔をしていた。とても幸せそうな」

硝子細工の小鳥となって、二人はエデンの空を飛んでいるのかもしれない。