青春白書4







「失礼します」
ガラリと保健室の扉をあけると、先生がいた。
「あれ?あんた誰だ?」
「教師に向かって誰とは失礼な生徒だな。俺はニール・ディランディ。今日から保健室の先生だ」
ニール・ディランディは、少女を抱いた少年にそう自己紹介した。
「んで、どうした?」
「多分、いつもの貧血。倒れたんだ」
「そうか。ここまで運んできてくれてご苦労様。後は俺に任せなさい」
保健室の先生とは思えない優男だと刹那は思った。
ふと、ティエリアを目をあける。
「きゃああああああ!いやあああああ!!!!」
暴れだす。
「ちょ、どうした!」
「いつもの発作だ。多分、精神的なものだ」
ニールと名乗った保健教師は、暴れるティエリアをなんとかしようとしている。
「おい、ティエリア。アレルヤだ、俺はアレルヤ。お前を守るから。落ち着け」
「アレ・・・ルヤ・・・・」
次第に大人しくなっていく。
そして、完全にティエリアは意識を失った。
「どうなってるんだ?アレルヤって?」
「ティエリアの遠い親戚で保護者。新任ってことは、ティエリアのこと何も知らないみたいだな。ティエリアは、幼い頃からずっと両親から虐待を受けて育ってきた。それで、父親からレイプされそうになったことが何度かあるみたいだ。本人がいってた。多分、そこらが原因じゃないのか、こういうのは。俺は精神科医じゃないから良く分からないけど」
ニールは、言葉を失った。
少女を抱いてベッドに寝かせる。靴を脱がすと、大きな血のしみをつくった靴下が目にとまる。靴下を脱がすと、何かが刺さったような傷痕をみつける。
「この傷は?」
「またか・・・・多分、画鋲がささったんじゃないのか。ティエリアは女子の友人がいないからな。いじめられてるらしい。本人が何も言わないから、誰がやったのかも分からないので対処のしようがないんだ」
「・・・・・・・・」
ニールは、また言葉を失う。
「じゃあ、俺は授業があるから。ティエリアのこと頼みます、先生」
やっと、教師に対してらしいものの言い方をした刹那は、そのまま保健室を去る。

「アレルヤって・・・・あのアレルヤか?」
ニールは思い出す。
昔、近所でアレルヤという名の自分よりも4つ年下の男の子がいた。よく双子の弟のライルと妹のエミリーとアレルヤの四人で遊んだものだ。アレルヤが小学生に入った頃は、宿題だって手伝った。勉強の面倒だってみた。ライルはエミリーを可愛がり、小学校に入るとあたりになると、兄さん兄さんと慕ってくれていたのに、あまり懐かなくなってしまった。そして全寮制の小学校に入学してしまった。寂しさ半分、弟のように懐いてくれるアレルヤをよく構った。
そのアレルヤを残し、テロでライル以外の全ての家族を失ったニールは親戚に引き取られて引っ越していった。アレルヤが小学2年の頃のことだ。

「とりあえず、怪我の治療っと・・・」
ニールは傷口を消毒し、固まった血を拭き取るとガーゼをあてて包帯を巻いた。
見るからにいたそうだ。傷口は深いが、血は止まっている。普通に歩くこともできないだろうに。手当てもしないまま、この少女は普通に歩いていたのだろう。靴下に広がった血の染みが大きい。
「アレルヤ?」
少女が石榴色の目を開く。
「いや、俺は・・・」
ティエリアは、手を伸ばしてニールの首に手を回す。
熱が出ているのだろうか。意識が朦朧としているようだ。
「アレルヤ、行かないで・・・・あなただけしかいないの」
一筋の涙を零して、また意識を失った少女に、ニールはどうしたものかとその手を払いのけることもできずにいた。
しばらくその苦しい体制のままいたが、ニールは少女の額に手を当てる。
「こりゃ高熱だ。早退だな」
思っていた以上の高熱に驚く。多分、39度はこえている。体温計でティエリアの体温をはかると、39度6分という温度だった。
ニールはすぐに氷枕を用意して、額に冷えピタシールをはる。
それから、職員室でティエリアの家に連絡するために、連絡先を調べて電話をかけた。
「あの、もしもし。こちら学校の者ですが、ティエリアさんが高熱のため早退させたいんですが、迎えにこれますか?」
電話先の相手は、慌てたように答えを返した。
「また、倒れたんですね。今すぐ向かいますので、それまでよろしくお願いします」
また、という言葉から、ニールはティエリアが頻繁に倒れているのだと知る。

保健室に戻って、ベッドの中のティエリアを見る。
ふと、右手首にされていたリストバンドが気になって外してみる。
「やっぱり・・・か」
そこには、いくつも手首を切った痕があった。
自傷行為。精神的に不安定な者は、そういった行動に出ることが多い。
「精神科にはかかってないのかねぇ」
見た様子だと、精神科にかかっている気配はない。かかっていれば、発作のように暴れたり、自傷行為も少ないはずだ。右手首の傷をみる。つい最近つけたとみられる、傷がいくつかあった。
それから、かなり昔のものだろうが、動脈付近を縦に切った傷を見て、ニールはティエリアの髪を優しく撫でた。
自傷行為をするには、いろいろ理由がある。ストレス発散だったり、突発的だったりもあれば、誰かに構ってほしいからという理由でするものもいる。
横に切ると、何度も傷口ができる。自殺しようとしても、うまく動脈を切れないのだ。
でも、縦に切るのは本当に死にたいから。横に切るよりも、縦に切ったほうが傷口は深く、動脈付近を切れば本当に死ぬ。
「こんなに若いのに」
死にたいと思わせる人生を歩んできたのだろう、ティエリアは。

ニールは今までいろんな生徒を見てきた。
同じように、自傷行為をしていた生徒を見たことはあるが、今現在している、悩みを抱えたままの生徒はまだみたことがなかった。保健室を受け持つ教師となってまだ2年。前の学校は平和で、むしろ保健室にさぼりにくる生徒を叱ったり、不登校になって保健室にくる生徒の悩みを聞いたりするくらいだった。自傷行為をするまでに精神的に追い詰められている生徒と接したことはまだなかった。
 



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