「ピザ焼けたぞー」 ティエリアのマスターは、ロックオン・ストラトスという。 ロックオンは、ピザを切って皿に盛り付けている。エプロンまでして、本当に人間臭くてどう見てもヴァンパイアに見えない。ヴァンパイアの証である真紅の翼は出していないし、牙も見えない。ハイクラスのヴァンパイアの中には、人と変わらぬ容姿を保つことでハンターから目を逸らす者も多い。ロックオンもそのタイプだ。 ヴァンパイアマスターであることを最近まで、ティエリアにまで隠していた。ロードで通していたのだ。マスタークラスであれ、使役魔と一度なったからには、他の人間が力ずくで奪いとれば、その人間の使役魔にされてしまう。それを防ぐためでもあった。 もっとも「水銀のヴァンパイアマスター」を使役魔にしようなどと考える人間などいないが。 本名はニールという。ニールといえば、千年前に南地帯で魔女狩りを引き起こしたことで有名な名前だ。南の三つの王国を滅ぼしたのが「水銀のヴァンパイアマスター・ニール」である。 それが、ティエリアのマスターだ。 11年前、ヴァンパイアハンターとして活動していたティエリアの殲滅対象であった。当時はただのCクラス、ティエリアでも倒せるヴァンパイアのふりをしていたのだ。 ティエリアは、ロックオンに血を吸われた。元々、人工ヴァンパイアなのだから、血を吸われたとしてもヴァンピールになることはない。その上、食われて、血を与えられ血族として迎えられた。 その日から、ティエリアの運命は変わる。 マスターであるロックオンは、千年の間ずっと活動し続けてきた。千年の間、ずっとどんな、たとえ七つ星のハンターであっても返り討ちにしてきた彼。 自分の城に、退治しにきたひよっこヴァンパイアハンターを血族としたのは、気まぐれであるとされているが、きっぱりとロックオンの意思である。 ティエリアを気に入り、ティエリアは食べられた。色で従わせていると影口を叩かれるのは、ここからきている。 ロックオンは、ティエリアの使役魔であり、そしてマスターであり、パートナーであった。ロックオンはヴァンパイアハンターではないが、その稼業につくティエリアを補佐し、助ける。 ティエリアは、ロックオンの傍にいることを望んだ。ティエリアは、血族とされたからには彼の意思には逆らえない。でも、ロックオンはティエリアの意思を尊重した。 ティエリアはロックオンに血を与え、人を襲わぬかわりに自分の血を吸うことだけを約束させた。そして、そのかわりにロックオンはティエリアの力となり、ティエリアを補佐する。 そういう契約を交わしたのだ。二人は。 「血と聖水の名において、ロックオン・ストラトス、私の命に従え」 血でかかれた契約の証が、ロックオンの額に浮かんで消えた。 「はい、命令通りずっと大人しくまってたぞ。ご褒美のチューちょうだい!」 ロックオンは手を広げて、エプロン姿のままティエリアに襲い掛かる。ハートをいっぱい飛び散らせたロックオン。キス魔となって襲い掛かってくる。 「ぎゃああああ」 ティエリアが、リジェネを盾にした。 「もぎゃあああ!!!」 リジェネは叫んで、ホルダーから銀の銃を取り出すと、銀の弾丸をうちまくる。 リジェネの銃の腕は、もう暗黒だ。壊滅すぎる。真上に撃ったはずの弾丸が、斜めから飛び込んでくる。ここまでくると、マジックだ。 リジェネの好みは、あくまでティエリア。ティエリアが大好きなのだ。ロックオンにキスされそうになって、銃を発砲しまくる。 その弾丸は、全て白梟のブラドが羽の矢で地面に叩き落とした。 「なんとも・・・楽しい御仁だな」 ティエリアはというと、捕まって抱き疲れて、唇を奪われている。いつもより長く深いキスに、ティエリアがくぐもった声を喉からもらす。 「んんーー」 「ご馳走様」 ペロリと、ロックオンは舌をぬくと、ティエリアの顎からしたたる唾液を舐め取る。淫靡だ。 「あっ」 そのまま、ティエリアは喉に噛み付かれた。 伸びた牙がささり、遠慮もなく血を吸われる。ロックオンが食事を終えて牙を引き抜くと、ティエリアを横抱きにして抱えあげる。 「棚に・・・・人工血液製剤がある。とって」 「はいよ」 本当の貧血、血液不足で立てないティエリアのかわりに人工血液製剤を取り出すと、噛み砕いて水と一緒にティリアに飲ませる。 「ん・・・・」 水が顎から滴る。それを舐めとるロックオン。 二人の関係は肉体関係もある。恋人同士だ。 リジェネが、顔を真っ赤にさせて口をぱくぱくさせていた。ティエリアとロックオンの淫靡なやりとりに、あまり免疫がないからだ。 「ち、惜しいな。リジェネがいなきゃ、ベッドに押し倒してたのに」 「簡便してください。明日には出発なのに」 「この情夫!ティエリアから離れろー!」 血液製剤のお陰で、なんとか具合が元に戻ったティエリアを、リジェネはロックオンの手から奪う。 「リジェネ」 「なんだよ」 「あんまりそんなかわいいやきもち焼いてると、襲っちゃうぞ」 リジェネは、顔面を蒼白にして身震いした。目に涙をためて、ティエリアを盾にする。 「ごめんなさい、簡便してください」 「いい子いい子」 リジェネとて、やはり自分の身が一番かわいい。 ロックオンは笑って、ティエリアとリジェネの頭を撫でた。 「これだから、水銀は!性質が悪い!」 リジェネはロックオンと距離を保つ。 「さて、夕飯にしようか。ピザが冷めちゃった」 ロックオンは、普通の人間の食べ物も好んで食べる。それはエナジーとなり、活動の基礎になるが、やはりヴァンパイアであるので、ティエリアの血が一番だが。 ロックオン、ティエリア、リジェネは遅い夕飯をとった。白梟のブラドもピザをつついている。 「白梟って、なんでも食べるんだね」 「某は、人世界にきて適当しておるから。一番の好物は、やっぱり猫かな」 「ねずみじゃないの!?」 「某は、白梟といっても魔の一種。ただの梟のようにねずみは食わぬ」 「ふにゃあああああ!!!」 台所で大人しくキャットフードを食べていた、ティエリアの使い魔フェンリエルが、ティエリアの腕の中に飛び込んでくる。 ふるふると体を震わせている。フェンリルはいつでも召還しっぱなし。他の人間が召還すれば狼の大きさになるのだが、ティエリアが召還すると子猫の大きさになって、にゃあにゃあと鳴く。 「フェンリル・・・・」 「にゃあ。主、僕食べてもおいしくないよ!おいしくないよ!!」 「おおう。なんともおいしそうな子猫じゃな・・・・じゅるり」 白梟はよだれをたらす。 「にゃあああああああ!!!」 フェンリルが逃げ出す。その後を白梟のブラドが追う。 「にゃああ・・・・凍らせちゃうんだもんね!」 フェンリルは凍てつく氷のブレスを吐く。白梟は、同じく氷のブレスを吐いた。 「はいはい、二匹ともケンカは外でな」 ロックオンが二匹をつまみあげて、外にペって放り出した。 NEXT |