「皇帝ネイの名において命ずる。生命の精霊神ライフエルよ。今ここに」 ロックオンの体からにじみ出た血が、魔法の円陣を空中に築き上げる。 ライフエル。 生命の精霊神。精霊たちの神の一人。 「久しぶりじゃのう、ネイ」 美しい貴婦人の姿をした精霊神は、ロックオンに笑いかけた。 「ライフエル。この三人の傷を癒し、命を元に戻して欲しい」 「また、昔のように・・・無茶なことを呼び出していいつけるんじゃの。昔のネイは、ジブリエルとソランとリジェリエルをもう一度世界に生き返らせ・・・その上、ジブリエルには魂の継承まで。禁忌の代償としてネイ、そなたは力の全てを失い自我を失って狂った。その願いが叶った証が、また死のうとしているとは・・・なんともえんわ」 「ライフエル。俺の命を、三人に」 「よいのか?」 「構わない」 ロックオンは微笑んだ。 「そなた・・・・綺麗な顔で笑うようになったのう」 ティエリアと出会って過ごした11年間は幸せだった。もう、いいんだ。 願いは叶ったから。 「願いは叶ったから。もう、いいんだ。俺の命は、もう尽きても」 「ライフエル殿。某の魂を、代価として払うゆえに」 「ブラド?何を言い出すんだ!」 「ほう。ブラド・・・血の王か。ふむ・・・・素晴らしいな。そなたの魂、神格まである。ネイにもあるが」 「にゃあ。ライフエル様。我の命も使ってくだされ」 「ほお、フェンリルか。これはまた・・・」 「ブラドもフェンリルも、何故?」 「分からぬか、ネイ。だからそなたは不器用なのじゃよ。この二人はそなたの幸せを願って自ら命を投げ出そうとしている。そう、かつてのジブリエルやソランのように。そなたの傍にいれば命が削られていくと分かっていながら傍にずっといた。そなたを愛しているのじゃよ」 「愛、して・・・・」 「そう。愛しているから、あなたに出あった。またあなたに恋をした。あなたの傍にいることを願った」 氷がとけ、傷が癒されて命を再び与えられたティエリアが、背後からロックオンを抱きしめた。 「愛って不思議だろう?」 刹那が、二人を見てから遠い空を見つめる。 「僕たちイノベイターに信じる神はいない。それでも、愛は信じる」 リジェネが、刹那の隣で微笑んでから、同じように空を見上げる。 古城はすっかり崩れて、空には太陽が昇っていた。 「何度でも、リピート、再生する。あなたを愛している」 「再生する、愛・・・・・」 ロックオンは、ティエリアを抱きしめる。 そして、涙をこぼした。 「あなたはネイでありニールでありそして僕の愛しいロックオン」 「ティエリア」 「あなたは一度覚醒してネイとなった。そして、契約も全て消えてしまった。もう一度、契約を」 「愛している・・・・」 ロックオンは、ティエリアと唇を重ねる。 それから、呪文のように言葉を口ずさむ。 「我、ロックオン・ストラトス、ここにティエリア・アーデと契約す。永遠に傍にあらんことを」 「我、ティエリア・アーデ、ここにロックオン・ストラトスと契約す。死さえも乗り越える愛を、共に刻むことを」 互いの額に、契約の証である光の紋章が浮かんで、消えていった。 「なぁ。ネイよ。代償は、ティエリア・アーデから貰った。故に、ブラドにもフェンリルにもネイにも用はない。さらばじゃ!」 精霊神ライフエルは、太陽の一部となって消えてしまった。 ヴァンパイアハンターたちが信じる太陽神、それは。 それは、或いは精霊神ライフエルなのかもしれない。 NEXT |