血と聖水V「慈悲を汝に、アーメン」







「いずれ、あの子供も狂って人を襲う」
「そんなことって」
「血の吸い方も知らない子供のために、人間を殺す僕と母親。そしてあの子供のエターナルは、死んだ人間の血を啜る。本能で。ヴァンパイアと人間のハーフが禁断なのは、特異な能力を持つことと、そして尋常ではない量の血を求めるからだ。ヴァンパイアも人間も見境なしに、襲うようになる。あの子の得意能力は、死者の復活だな。母親と会話したいとう希望がネクロマンシーの魔法となり、魔法の使い方も分からないのにそれは形となっている」
「ママ・・・さようなら」
少女は立ち上がると、笑顔でこちらに駆け寄ってきた。
「ごめんね。こんな嫌な思いさせてごめんね。殺して」

「・・・・マリアーヌ」
ティエリアが、少女を抱きしめた。
「暖かい。あなたの名前は?」
「ティエリア」
「そう。私は、マリアーヌであってるよ」

少女は全てを知ったのだ。ロックオンが教えたのだ。触れた時に、何故マリアーヌが生きているのか、母親が守ってくれるのかエルドシアが自分を守るのか。全てハヴァンパイアであるマリアーヌの命令であり、彼女ったちの意思ではない。エルドシアと、母親が殺した人間の血をマリアーヌが啜って生きながらえる。そして母親はとっくの昔に死んでいて、自分の魔法で一時的に、マリアーヌを守るために、血を与えるために不死者として復活することも。

言葉でいって伝わる年齢ではないだろう、まだ幼すぎる。

「もう、私人の血なんて啜りたくない。人を殺したくない。ママにそんなことして欲しくない。ただ、私は愛されたかった。ママとパパがいればそれだけで良かったのに」
ティエリアも泣いていた。
「マリアーヌ・・・・・」
マリアーヌの記憶が、ティエリアに流れ込んでくる。

母親と父親に愛されていたマリアーヌ。
目の前で殺された父親。
マリアーヌを守るために不死者として復活する母親。そしてマリアーヌのために人を殺して血を与える。
全てはマリアーヌを愛しているから。

その感情は刹那にもロックオンにも流れ込んでいく。
「こんなので、迷わされるものか!」
「まぁ、まてって」
ロックオンが刹那を止める。

「ありがとう」
マリアーヌは微笑んだ。
そして、ティエリアの手から銀の銃を受け取る。手がこげる匂いがした。ヴァンパイアに戻ったマリアーヌには、銀は毒だ。
「マリアーヌのこと、愛してくれてありがとう、パパ、ママ」
止める暇もなく、引き金をこめかみにむける。
そのまま、立て続けに弾が尽きるまで発砲する。
ヴァンパイアと人間のハーフはなかなか死なない。
しまいには、首と胴が衝撃で離れて落ちた。
「マリアーヌ!」
ティエリアは、血まみれの首を拾い上げて抱きしめた。
「マリアーヌ、ティエリアのこと大好きだよ。マリアーヌ、化け物なのに・・・あなたの瞳、ママに似てる」
首を失った四肢は、首を求めて歩きだす。
「マリアーヌの最後のお願い。マリアーヌに、安らぎを」
涙をこぼして、マリアーヌは懇願する。

「ロックオン!」
ビームサーベルを抜き取るティエリア。
「血と聖水の名において、ロックオン・ストラトス、我が命に従え」
ロックオンの額に契約の証が浮かんで消えた。
ロックオンは血の本流となり、ティエリアのビームサーベルに纏いつく。
「さようなら、マリアーヌ」
ティエリアは、動く四肢をバラバラに細切れにした。そして、まだ瞬いている生首の頭に、一撃を加える。

「・・・・・・・・・命の精霊リーブよ。この哀れな子羊を、母と父の元に導け」
刹那によって呼び出された小人が、光を生み出す。
マリアーヌは、母と父の魂に抱かれて、世界から消滅していった。

サラサラと灰となっていくマリアーヌ。
ティエリアは嗚咽をこぼした。
「なぜ、世界はこんなに・・・・」
「それ言っちゃおしまいだろ。禁断をおかしたのはこの親子だ。帝国でも、人とエターナルの恋愛は禁忌。生まれた子供はすぐに処分される」
「種族をこえた愛は、無意味なのですね・・・・」
「・・・・・・・・・・・生れてくる子供は狂ううえに、厄介な能力を有するからな。人とヴァンパイア共存のためにも、仕方ないことなんだ」
刹那はマリアーヌの灰をカプセルに詰める。

誰もいなくなった屋敷。
ティエリアは火を放った。
マリアーヌと母親と共に、この屋敷も灰に戻ればいい。
残されたオートマティックバトルドールのメイドを始末するためにも。
 



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