時が正常に動きだす。 巨大な狼の出現で、凍り付いていた人たちの氷が解けたのだ。 「にゃー。ぷしゅるるるる」 フェンリルは、もとの子猫サイズに戻って、ティエリアの腕の中で震えていた。 「寒いの?」 「なんであんなに大きくなれたんだろう。分からないにゃ」 「真なる契約って?」 「それも知らないにゃ」 ティエリアはくすっとわらって、衣服を裂いた。 「にゃ!主!?」 ハンカチを噴水の水にひたしてフェンリルの汚れはとったが、前足に血が滲んでいた。 ティエリアは再生の魔法をもっていないので、そのまま裂いた衣服の布で前足をきゅっと包んであげた。 「清浄の精霊よ、どうか汚れをぬぐいさりたまえ」 キラキラと光がフェンリルを包む。 名もなき最下級精霊は、ティエリアにだって使いこなせる。 「これで、大丈夫」 ナイトメアに乗って、ティエリアとフェンリルの様子を見ていたロックオンは、だるそうにしていた。 フェンリルが10メートルの巨大な姿となったのは、ロックオンの強大な魔力のお陰だった。 愛するティエリアと、新しく家族になったフェンリルにもしものことがないようにあとをつけていたのだ。 ゼイクシオンの兄のフェンリルが出てきたときは、どうしようか迷ったが、魔力を与えてやった。 成人すれば、ティエリアのフェンリルは10メートルを物質界でもこえる実体を保てる素晴らしいフェンリルになるだろう。 「帰って、ピザでもつくっとくかね」 ティエリアは遅くに帰ってきた。 それはそれは、フェンリル用のふかふかの寝床から猫じゃらし、缶詰のキャットフード、色違いの首輪・・・・結構な出費になったがティエリアには構わなかった。 フェンリルを召還しっぱなしになるので、この場合ティエリアの魔力が消耗され続けるが、フェンリルは反対に、普通ではありえない主を自分から選び、自分から契約者となったのでティエリアが魔力がつきてダウンすることはない。 「にゃ!にゃにゃ!!」 ロックオンは猫じゃらしでフェンリルと遊ぶ。 フェンリルもロックオンをティエリアのマスターと認めたようだ。 相変わらず頭かじったりするけどね。 「夕食にしようか」 「ロックオンのピザはおいしいにゃ」 ピザをかじりながら、キャットフードも食べる。本当になんだってたべる。野菜のサラダだって食べる。 普通の精霊は、元素を体に取り入れるだけで人間のように食物を食べないが、中にはこうして人間の食べ物を食べる精霊もいる。 それが、精霊種族といわれる一族。フェンリルも、巨大な狼以外に人型をとる。精霊種族として。 だが、人型で生まれた生粋の精霊種族以外は、あまり本来の姿以外を見せない。精霊の中でも、精霊種族でもなく見た目が人間の姿をしている精霊もある。 ウンディーネやシルフがその例だ。ウンディーネはマーメイド、シルフは翼を生やした風人だが、基本となるのは人の姿。 精霊と人間が出会って1万2000年。 精霊も進化した。 人が魔法科学で文明を栄えさえ、そして滅びていったように。精霊も独自の文明をもち、そして滅びていった。それからまた再出発した世界。 それが、ティエリアとロックオンの生きる、世界。 魔法は当たり前のように世界に浸透し、都市や国家の首都ではガスだって水道だって普及している。電気だって。でも、そこには密接に精霊が関係している。 電気をうみだすのもガスも水道も、全て精霊の力と魔法によるものなのだ。 人と魔法と精霊が共存する世界で、明日もティエリアはヴァンパイアハンターとして、そしてロックオンはティエリアのマスターとしてパートナーとしてティエリアを補佐するのであった。 *********************** 血と聖水シリーズが以外な人気なので、外伝のようなものをかいてみようと。 以外と長くなった。フェンリルとティエリアの出会い。 |