血と聖水W「実家に帰らせていただきます」







ティエリアとロックオン、それにフェンリルと白梟のブラドが住むホーム。
時間は真昼間。
ティエリアはフェンリルを伴って、買い物に出かけていた。白梟のブラドは止まり木の上で眠っている。梟だけに一応は夜行性らしい。
帰ってきたティエリアは、荷物を台所の冷蔵庫に入れたり食料保存個に入れたりしていた。
冷蔵庫には下位の氷の精霊が住み着いて、24時間働いている。
電気は雷の精霊が各家に電気をおくる。発電所なんて、名高い王立の魔術師たちが24時間交代で雷の精霊を召還しては使役し、都市部の主要な各地におくる電気をおこす。
精霊と人間が出会って1万2000年。一度は滅んだ魔法科学文明も随分なところまで発展してきた。
精霊がいなければ、ここまで発展はしなかっただろう。

文明はここ数百年発展していない。
それは同じ古代王国のように、魔法科学文明の極みまでいき、滅びるのを防ぐためだ。
人は精霊の他にエネルギーとなる霊子文明を発達させた。人工的に人間を生み出して、その人間の霊子エナジーを、カプセルに閉じ込めたまま抽出するのだ。
それは神の禁忌を犯す領域だった。
太陽神ライフエルがまだ存在しなかったころ、創造神や主だった神々の怒りは荒れ狂い、一夜にして古代魔法科学文明は滅び去ったという。
神話の話なので、実際は霊子エナジーの抽出ができなくなったとか、精霊との契約がなくなり世界から精霊と魔法が消えたとか、いろんな説があるが真実は定かではない。

「ロックオン、ただい・・・・・・・」
「あ、助けてくれ」
寝室で、恋人であるはずのロックオンが美少女を押し倒していた。
ティエリアは、ベッドをゴゴゴゴゴと、掴みあげるとロックオンに向かって投げた。
「ロックオンの浮気ものおおおおおお」
「のおおおおおお!!!!」
ロックオンは避けることもできずにベッドに潰された。
プチって。
下にいる美少女も潰れただろうがそんなことどうでも良かった。

まさか、ロックオンが浮気するなんて。
散々愛をティエリアに囁き、血族にするのもティエリアだけだと誓っておきながら。

ティエリアは荷物をまとめだした。しばらく実家に帰らせていただきますと、メモをかく。
とりあえず、リジェネのホームでしばらくは厄介になろう。
リジェネのホームは実家ではないが、二人は血を分けた双子なので似たようなものだ。

「フェンリル、荷物まとめて。出て行くよ」
「にゃ。いっぱいあるにゃー」
「大気の精霊エアリアルよ、出でよ」
ティエリアは精霊を一匹召還する。
「主?わー、もう一人の主が潰れてる」
エアリアルは他の精霊と同じで精霊種族として物質世界つまりは人間世界でも人間の形をとるタイプの精霊だった。長い羽耳をもった風の精霊の一種だが、空間精霊としても有名だ。
「この荷物、亜空間に放り込んでおいてくれないか」
ジャボテンダー人形から日用品、10日分の衣服などから、ヴァンパイアハンターとして必要なもの・・・とてもじゃないが、一人では持ちきれない。
しばらくの間リジェネの世話になると決めているので、荷物も多い。
歯ブラシとか日用品も混ざっている。
「りょーかーい。ぽいぽいぽいぽいっとな」
エアリアルは亜空間に荷物を放り込む。
そして身軽になったティエリアは、フェンリルの寝床なども荷物として亜空間に放り込むと、ホームを後にしようとした。

「ロックオンのバカ!」
バタンと乱暴にドアを閉めるが、鍵だけはしっかりかける。
ここらへんは、所帯じみている。

いざ、リジェネの家に向かおうとした時、空からロックオンが押し倒していた美少女が降ってきた。
「何?」
ティエリアは敵対心丸出しで、相手がつま先から頭のてっぺんまで見てくる、不快な視線と対峙する。
美しい少女だった。ティエリアも美しいが、どこか違う種類の美しさを持っていた。
蒼に近い緑と紫のオッドアイで、波うつ水色の髪を膝裏まで伸ばしている。神秘的だった。
北にある聖都の教皇もオッドアイで有名だ。
オッドアイはそうそう生れてこない。魔法で瞳の色をかえることもできるが、長い時間はもたない。オッドアイは幸福と富を与える者として、神子にも選ばれる。
着ている服は簡素なものだが、肩の部分や鎖骨が見えるようわざとカットがはいっている。ティエリアも色は白いが、目の前の少女は生れてから一度も太陽を浴びたことのない、アルビノのような白さをもっていた。

「減点10」
「は?」
ティエリアは苛苛していた。
恋敵なんだから仕方ない。嫉妬でもう噴火しそうだ。
いつもは冷静なティエリアであったが、感情でここまで先走ってしまった。
「感情で先走ってはいけない。それから、あなたが思っているように、俺は少女ではない。男だ」
その言葉に、ティエリアはロックオンがここにいたら絞め殺したくなっていた。
「あの節操なしいいい!!!女だけじゃ飽きたらず、男まで!!」
かつてのロックオンの女性と名乗る人物がたまに訪れる。
無性の中性であるティエリアは、ロックオンの中では少女だった。少女よりの中性タイプで、リジェネは少年よりの中性タイプだ。男に興味はないと散々いっておきながら、手を出していたなんて!
いや、確かの目の前の少年は男といわれても信じられないくらいに美しいが。



NEXT