世界が終わっても番外編「扇風機」







「ああああああああ〜〜〜〜〜〜〜〜」
声が、風に遮られて変に間延びする。
チリーン、チリーン。
天井からぶら下げた風鈴が、風雅な音を立てる。
「あーあーあー」
リジェネは扇風機の風を最大にして、風をあびている。長く伸びたくせのある紫紺の髪が風で舞い上がる。
「あーーーーー」

がしっ。
ティエリアが扇風機を奪う。
この部屋のクーラーが今故障中なのだ。だったら違う部屋に移動すればいいだろうに。

「僕のものだ!」
「ティエリアああああああ」
リジェネは泣きながらも扇風機を譲る。

「ああああ〜〜〜」
ティエリアの間延びした声が響く。

夏に人一倍弱いティエリアは、扇風機もクーラーなしでもいられない。
夏の暑い日に外出したら、太陽で溶けてしまう、きっと。

「また、体温あがってるね?」
リジェネがティエリアの背後から抱きついて、大分あがった体温に首を傾げる。
「リジェネの手冷たい。きもちいい」

「かき氷できたぞー」
「はーい」
「はーい」
二人は揃って返事する。

チリーンチリーン。
まだ夏は始まったばかりなのに。

「僕のはメロン味」
「僕のはレモン味」
「俺のはスイカ味」
「何それ!いちごじゃないの、その色!」
リジェネがくわえていたスプーンで、ニールの食べていたかき氷を一口分すくって食べる。
「・・・・・・・・・・スイカだ」
「僕も食べる〜」
「はい」
リジェネがニールのかき氷をすくって、ティエリアに食べさせる。

しゃりしゃり。
三人は、扇風機の風を浴びながらかき氷を食べる。

食べ終わったティエリアに、ニールがキスをする。ちゅ。
「メロン味がする。リジェネは?」
「う?」
リジェネは長くて鬱陶しくなった髪をポニーテールにしている最中だった。

ちゅ。

「レモン味だ」

「な、な、な、な」
おまけに舌まで入ってた。
「なーーーー!!!」
「僕も僕も」
ティエリアがリジェネにキスをする。ちゅ。
「レモン味がする、リジェネ」
「ああああああああああ」
リジェネはニールにキスされたことに真っ赤になって、最後の仕上げにティエリアにキスされて真っ白になった。

チリーンチリーン。
風鈴の鳴る音が聞こえる。

「からかいすぎたかな?」
「いつものことじゃないか」
ニールとティエリアは、真っ白になったリジェネをつついていた。

ニールとキスするのははじめてではない。ディープキスだって何度かしたことがある。
リジェネとニールの間に、無論体の関係はないが。キスくらいはある。
リジェネからすることもたまにある。挨拶のようなキス。
でも、こんな不意打ちは。
真っ白になったリジェネはうちわを仰ぎながら、寝転んだ。
「僕の唇が汚されたああああああ」
ニールとティエリアは笑う。
「なんなら、もっとキスしてやろうか?」
「けっこうです!!」
リジェネは正座して断った。
ジャボテンダーを抱きしめて、それでガードする。
「ニール、あんまりリジェネいじめないでね」
「はっははっは」
ニールはからになったかき氷のうつわをもっていった。

チリーンチリーン。
夏はまだ始まったばかり。

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