機械じかけの金魚







ネオン色の水の中を泳ぐ金魚。
それは小さな機械でできている。機械じかけの魚。
コポポポ・・・・。
水の中を漂うように泳ぐ。

ティエリアはじっとそれを見つめていた。
「ティエリア?」
「起きたのか、刹那」
「またそれを見ていたのか」
「魚は、嫌いだ。でも、泳いでいる姿は好きだ。本物でもなくても」
「このトレミーはペット禁止だからな」
ティエリアが、地上に降りた時にじっとショップで見ていたそれを、刹那が買ったのだ。
「本物のほうがいいんだけどな」
刹那は昔、子供時代川で釣った魚を小さな水槽の中に入れて飼っていたことを思い出した。
「確かに、本物の方が綺麗だ」
ティエリアはネオン色に耀く水の入ったガラス瓶を片手で持ち上げる。
機械じかけの金魚にはAIが搭載されており、エサを求めて人になつくかのようにティエリアのほうに寄って行く。

「昔みたいに、金魚すくいしたいな」
刹那がぽつりともらす。
昔、ティエリアとロックオンとアレルヤ、皆で夏祭りに出かけた。
遠い記憶。
もう5年前のものになる。
あの時は刹那とティエリアは競争するように、金魚をすいくまくったっけ。

「いつか、いけばいいさ」
ティエリアが機械じかけの金魚の泳ぐガラス瓶を置いて、戻ってくる。

金色に耀く二つの瞳が、暗闇の中で見詰め合う。

「刹那」
刹那にベッドに組み敷かれて、ティエリアは刹那の黒髪を指ですくいあげる。
ギシリと、ベッドが重みで揺れる。
絡みつくようなキス。
舌をひきぬく。
顎をつたう唾液を手の甲でぬぐって、ティエリアは笑った。

「溺れる」
「溺れればいい」
二人は、毛布を被って抱きしめあう。
胎児のように丸くなりながら。

「ロックオンに、昔金魚を買ってもらった」
丸くなりながら、ティエリアは石榴色に戻った瞳をあける。
「でも、すぐに死んでしまった」
「ティエリア」
「君は死ぬな。彼のように、僕をおいていくな」
「死なないさ。置いてもいかない」
刹那はティエリアの瞳をのぞきこむ。

二人は目を閉じる。
瞳を閉じた中で、金魚が泳いでいた。
あの夏の日の夏祭りはもう二度とこない。
だって、どんなに望んでももう彼はいないのだから。
「刹那。いつか、一緒にアイルランドにいこう」
「ああ。そうだな」
毛布を被って、それきり黙りこむ。

ティエリアが瞳をあける。闇の中で耀く金色の瞳。
シンクロするように、刹那が瞳を開く。同じ金色の瞳。

コポポポポ。
ガラス瓶の中で、機械じかけの金魚がいつまでも泳いでいた。