光の河岸で彼は微笑む







光の河岸で、彼は微笑む。
優しく、柔らかく。

ダブルオーライザーで、刹那はティエリアとリジェネを迎えに地球に降りた。
リジェネは、ティエリアの擁護もあり、CBに受け入れられた。
肉体をなくした二人は、マスター・イオリアの作ったスペアの肉体に意識体を宿した。
不滅のフェニックス。
イノベイドである二人は、人類を導く真の存在であるだろう。だが、人を導く気は二人ともなかった。

「刹那。どうしたんだ?」
トレミーに帰還して、いつもの制服に着替えた刹那が、ティエリアをずっと抱きしめたまま離さないのだ。
「一瞬でも。お前が死んだ気がして、怖かった」
「あの時いっただろう。勝手に殺してもらっては困ると」
「敵は必ず打つといったな、俺はあの時。取り乱すことは敗北に繋がる。でも、目の前が真っ暗だった。失いたくない。
もう、あんな思いを味わうのはゴメンだ」
「刹那。僕は、生きている。意志体の時も、ヴェーダと一体化していたときも、死んだわけではない」
「それでも。もう、いやだ」
「不安なのか?」
「悪いか。好きな人間が生きて傍にいることの安堵しているんだ。今まで不安で堪らなかった。おかしいか?」
「いいや」
ティエリアは、刹那の顔をのぞきこむと、金色の瞳で見つめ返す。刹那の瞳も金色だ。
「僕はここにいるよ。刹那の目の前に」
「ああ」
「皆生きている・・・・五年前の時のようにはならなかった。歩いていこう、皆で」
刹那は、ティエリアに手を差し出す。
「俺と、歩け」
それは、命令形だった。
なんて傲慢な、と一蹴されてもおかしくない言葉だった。
「答えは、君と再び会った時にすでに出ていたよ。君と生きる」
差し伸べられた手に、手を重ねる。

そう、生きていこう。
二人で、一緒に。
新しい世界を。

「あのさ。僕のこと、忘れてない?」
リジェネが、居心地が悪そうに咳払いした。
「ティエリアは僕のものだよ」
「俺のものだ」
「何それ!」
「リジェネ、落ち着け」
今にもビンタをかましそうなリジェネを、ティエリアが止める。

光の河岸で、彼は優しく微笑む。
エメラルドの瞳の隻眼の、栗色の髪の青年。かつて、ガンダムマイスターだった。
そう、ティエリアの最愛の人。名はニール・ディランディ。
彼は、優しく笑って、エメラルドの蝶の群れとなって散って、天へと再び昇っていった。

刹那に託したもの。
今はもう全て、刹那の意志によるものだ。

天に昇りながら、彼は振り返る。最愛だった人を。
「愛してる。生きて、幸せになれよ、お前は」
その一言だけを残して、彼は完全に光の河岸から消えてしまった。

その声が、ティエリアに届くことはない。
でも、想いは伝わる。
きっと。