氷の女王









「うわあああああぁぁぁぁぁ!!!」
その真っ二つに折れたディスクを見たときのティエリアの反応といえば、叫び声をあげて、赤くなったかと思うと蒼くなって、次に黄色くなってまるで信号機のようだった。
信号機のように色を変えるティエリアを刹那が面白そうに見ていた。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
か細い声は、吹き飛んでいきそうだ。
その声が、絶望ではなく憤怒からくるものであると、刹那は学習していた。
「ティエリア、落ち着いてよ!」
必死で、険悪になったムード(主にティエリアの周囲だけ)を元に戻そうと、アレルヤはがんばった。アレルヤは、刹那の目から見てもかわいい性格をしている。
ティエリアほど乙女ちっくではないが、それでも見た目の整った顔とは裏腹に、とてもかわいいものがすきだし、甘いものも好きだったり、ちょっとそういう部分ではティエリアと共通点があるのかもしれない。
「ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
ティエリアは、またか細い声を出した。
いつ爆発してもおかしくない。
刹那はすでに、安全圏に逃げている。
ティエリアは、噴火前の火山だ。その火山に、アレルヤは果敢にも立ち向かう。
「ロックオンも、悪気があってしたんじゃないと思うよ?だから、とりあえず落ち着きなってば」

ドカーン!

火山が噴火した。
「うるさい!!」
ティエリアのビンタがうなる。
アレルヤは、あわれ、ビンタの餌食になって床に突っ伏していた。
ツンツン。
刹那が指で突いてみるが、ピクリとも動かない。
刹那は、合唱した。
「ナムナム」
線香があるなら、供えてあげたい。できれば、数珠でもう一回ナムナムと唱えたかった。

ギロリ!
石榴色の瞳に睨み上げられて、刹那は物陰に隠れた。
「ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
思いっきり叫ぶティエリアの格好は、ふわふわの毛皮がついたかわいらしい服だ。
その格好に似合わぬ叫び声は、いつもの綺麗なボーイソプラノではなく、低い男性の声だ。
見た感じ、絶世の美少女しか見えないのに、ティエリアは低い声でうなった。
そして一言。

「絶望した」

絶望先生だ!サインを貰わなくては!
絶望先生そっくりの声で、絶望したと繰り返すティエリアの姿に、刹那は胸が苦しくなった。キュンと、胸がときめいている。今すぐ物陰から飛び出して、ティエリアにサインをもらいたい。
刹那は、CBきっての絶望先生マニアだった。ロックオンも絶望先生のアニメを見ているが、刹那は絶望先生の原作コミックを持っているし、CDも、アニメのDVDだって持っている。
しまいには、同人誌まで買い出して、いけない道にはまってしまった刹那を、主にロックオンが元に戻そうと踏ん張っているが、今のところ効果はない。
刹那は、ついにはボーイズラブといわれるジャンルまで読み出した。免疫を持っているのか、平気なのである。
ティエリアは、かわいい衣装をふわふわ翻しながら、ガルルルルと、猛獣のような唸り声をあげた。

「万死に値する!ロックオン・ストラトス!隠れていないで出てきなさい!」

いけない道にはまってしまった刹那は、隠すこともなく堂々と、ガンダムOOの同人誌を通販で買いあさった。宇宙にあるトレミーに、どうやって通販で届くのかは謎である。
刹那が買う同人誌のどれもが、ロックオン×ティエリアという内容で、主にギャグ漫画だったが、やはり同人誌は同人誌。ティエリア女性化の本もあれば、ボーイズラブの本もあった。
むしろ、ボーイズラブの本が大半を占めているかもしれない。
刹那は、王留美の口座から金を自由に使えるのをいいことに、ガンダムOOのロックオン×ティエリアという本を買いあさった。
サークルも見ていない。絵の下手上手、ストーリーの良し悪しも見ずに、とりあえずロックオン×ティエリアの本であれば購入していた。
18禁であろうが、刹那は迷うことなく購入する。まだ16歳の刹那が買ってはいけない内容の本を、刹那は買う。そして、ロックオンがそれを取り上げた。
刹那だって、無論文句をいう。
返せという前に、ロックオンが同人誌の内容を確かめてから、刹那がみてもOKな18禁意外の本を刹那に返した。
刹那も、全部没収されるのが嫌なので、18禁の本については文句を言わなかった。
購入した刹那が悪いのだ。
だが、ギャグ本でもボーイズラブが普通に展開されており、刹那はそれを気にすることもなく読む。
実際のティエリアとロックオンは、刹那が見ているボーイズラブな本のようなことはしていない!・・・とは断言できないが、15禁くらいで止まっている。
18禁の関係まではいっていない。
その18禁の本の山が、ロックオンの部屋から大量にでてきた。ダンボールに入れられていたが、しわがついていたりで、明らかにロックオンが読んだ形跡がある。
特に、女性化本のしわは激しい。

ティエリアは、18禁のボーイズラブの本を読んだ。
「くだらない。ただヤってるだけか」
はらはらと見守っているアレルヤと違い、取り上げられた18禁本を見る機会だとばかりに刹那は真剣に読みふけった。ティエリアも、ヤってるだけかとかいいながら、次々に本を読んでいき、しまいには涙を浮かべていた。
それは、恐怖や絶望からくるものではなく、ただ単純にヤっているだけなく、綺麗な絵で緻密に描かれた、哀しいストーリーに涙したのであった。
アレルヤといえば、ページを数枚開いて、そこで繰り広げられる禁断の世界に口を閉ざした。
その本は、ロックオン×ティエリアであったが、最初はロックオン×アレルヤだった。あんあん喘ぐ自分の姿を描かれて、アレルヤは涙を流しながらあさっての方向を見ていた。
「僕は、何も見ていないよ、ハレルヤ」
「はん、ほんとにやるんならロックオンのほうが受だろうが」
ハレルヤが出てくる。
「受とかどうしてそんな専門用語知ってるのさ、ハレルヤ!」
ぱっと、アレルヤがハレルヤに変わる。
「決まってんだろ、暇だったから刹那から同人誌借りて読んだだけだぜ」
「ハレルヤ、破廉恥だよ!」
「18禁の貸してくれっていったら、ロックオンの奴、ダンボールごと貸してくれたぜ?その中に、凄いのあったぜぇ?アレルヤが、敵に捕まって輪姦されまくってるやつ。ロックオンが助けにきて、ロクアレになってヤりまくって、ティエリアがロックオンに片思いしてアレルヤは身をひいて、最後はロクティエになるんだ。修正入りまくりで、すげー濃かった」
「うわあああぁぁぁぁぁ!!僕もうお嫁にいけないよ、ハレルヤぁ!」
想像しただけでも、鳥肌がたつ。アレルヤは、両腕を抱えて、自分の身体を抱きしめるような格好になった。自分が男にヤられてる漫画なんて、見たくもない。
それなのに、刹那とティエリアは平気で読み漁っていく。
刹那が今読んでいる本はの表紙には、ロク刹+ロクアレ+ロクティエと書かれていた。恐る恐る刹那が開いているページを見ると、アレルヤと読んでいる本人である刹那が、ロックオンに自由を奪われて、大人のおもちゃで散々好きなように身体を嬲られているシーンだった。
「うわあああ!!」
アレルヤが、顔を覆った。
正常な男子の反応であろう。
だが、刹那は自分が題材にされ男にヤられまくっているというのに、顔色一つ変えない。
同じように、ロクティエばかりの内容で18禁であれば、ティエリアはロックオンにヤられ放題である。それなのに、ティエリアも顔色一つ変えない。そして、読んだ本を3つに分けていた。
絵もストーリーもくだらない買うだけ無駄な同人誌と、とにかくヤりまくっているエッチな本と、絵はあまり上手くないがストーリーが良かったり、絵もストーリーも両方よかったり、ヤりまくってるけど絵が綺麗な本。
3種類を分類すると「ゴミ」「とりあえず暇潰しにはなる」「読んでそれなりにいいか、読んでとても感動した、もしくは絵がずば抜けて上手い」
分類されていく同人誌を、アレルヤはなんともいえない思いでみていた。
「その、ティエリア、刹那、読んでて平気なの?」
「おもしろい」
刹那がそう答えた。完全に、いけない道にハマってしまっている。
「二次元の話だろう。本物ではない。別に平気だ」
ティエリアが、「良い本」に分類した同人誌を、トントンと綺麗に揃えた。
「刹那・F・セイエイ。読むなら、この本の山にしろ。それでも足りなかったら、こっちだ」
ティエリアの綺麗な指が、ヤりまくっているエッチなだけの本の山をさした。
「これはゴミだ。読むだけ、時間の無駄だ」
ゴミに分類された本の山はわりと少ない。
無節操に買いあさった刹那であるが、わりと良い本を多く買っていた。
「了解した」
刹那が、全ての本を短時間で読み終えたティエリアに関心した。
ティエリアは、難しい専門書を読んでもその内容を吸収できるほどの頭脳を持っている。同人誌という漫画本を読んでいくのは簡単な作業だった。
「僕のオススメは、「それがたとえ、禁忌でも」というこの本と、「愛の唄」というこの本だ。ストーリーが哀しくて読んでいてそれなりに胸にくる」
「ティエリア・アーデがこんな俗物の素人が出す同人誌を褒めるなんて珍しい」

「ミス・スメラギが隠れて同人誌を描いている。僕は、作戦の打ち合わせだといわれては、その漫画をかく作業を手伝っている」
「ええええええ!!」
アレルヤが、度肝をぬかれたように驚いた。
「やはりな。スメラギ・李・ノリエガが描いたトレミーの手描きのパンフレット、とても絵が上手かった。漫画絵を描いていたしな」
「お陰で、僕も個人同人誌を出したことが何回かある」
「ティエリア・アーデがか。ジャンルは?」
「コードギアスのルルーシュ×C.C.の漫画同人誌と、BLEACHの一ルキの小説本+挿絵だ」
「王道ジャンルだな」
「ミス・スメラギが今描いている同人誌は、ボーイズラブだ」
「やはりな。スメラギ・李・ノリエガは、ロックオン・ストラトスとティエリア・アーデが付き合いだしたと知った時、目を輝かせていた。無性とはいえ、ティエリア・アーデはデータ上男性になっているしな。彼女は立派な腐女子だ」
「道理で、時折、ミス・スメラギの視線がよく注がれると思っていた」
そういうきみたちは、腐女子ならぬ腐男子ではないのか?
そう聞きたかったアレルヤであったが、怖かったので止めておいた。
「ちなみに、ミス・スメラギが描いている今の同人誌は、ジャンルはガンダムOOで漫画のロクアレだ。小説と挿絵は僕が担当することになった。もうストーリーは打ち終わった。あとはヤってるシーンだけなんだが、どうにもいまいち書く気が起こらない。この部分は、ミス・スメラギが代筆することになった」
「ハレルヤあああああぁぁぁぁぁぁ!助けてえええぇぇぇぇ!!!」
ロクアレとは、つまりはロックオン×アレルヤだ。
僕がロックオンにヤられまくる物語をミス・スメラギが描いて、小説をティエリアが打って、そして肝心の小説でヤられるシーンをミス・スメラギが代筆するというのか。
もはや恐怖だ。
CBとは、なんて怖い集団なのだろうか。
ハレルヤが出てくる。
「二次元だし、別にアレルヤが実際にヤられるわけじゃねぇんだからぎゃぁぎゃぁ騒ぐな。うっせぇんだよ!」
「酷いよアレルヤ!精神衛生上、好ましくないじゃないか!」
「うっせ、知るかよボケ!」
そのまま、ハレルヤは眠りについてしまった。
「ハレルヤああああぁぁぁぁl!!!」
アレルヤはシクシクと涙を零した。
そんなアレルヤがかわいくて、刹那は思わず頭を撫でてしまった。

「ちなみに、ロクアレで最後はアレティエだそうだ」
しゅるり。
ロックオンが買ってくれた服の、胸のリボンを解く。
「ねぇ、アレルヤ、私をめちゃくちゃにして?」
石榴色の瞳で、絶世の美少女が、白い肌を露にアレルヤに迫る。
いけないとは分かっていつつも、アレルヤはティエリアの頬に手を添える。
そのまま唇が重なった。
「ご馳走様」
刹那が、ディープキスに手を合わせた。
「ん、ん、まってティエリア」
ペロリと、ティエリアが唇を舐める。
そして、背伸びしてまたアレルヤと唇を重ねた。
「んあっ。ふあ・・・・・」
アレルヤの声に、ティエリアがまた唇を舐めた。
「かわいい反応だ。僕が男だったら、このまま食べてしまいたいくらいに」
「食べてしまってはどうだ」
刹那が、ディープキスを繰り返す二人に、無表情でいった。
大分、同人誌によって思考が汚染されているようであった。
嗜虐的に石榴の瞳が輝くが、息もたえだえに地面に蹲ったアレルヤを見る。
「残念だがボーイズラブのようにはいかない。僕はロックオンのことを愛しているし、無性だ。アレルヤをあんあん喘がせる一物がない」
本当に、なんてことを言っているのか分かっているのだろうか、ティエリアは。
アレルヤは顔を真っ赤にした。
「照れるとことが、アレルヤ・ハプティズムのかわいいところだ」
「アレルヤ・ハプティズムはかわいいな。トレミーで一番かわいいんじゃないか」
年少組み二人のタッグに、アレルヤはガックリと力尽きた。


それで、最初に話が戻る。
ティエリアがなぜ怒っているのかというと、お気に入りのゲームであるAirのゲームディスクを割られたからだ。ロックオンにせがまれ、しぶしぶかしたのに、ロックオンはディスクを綺麗なまでに二つに折ってくれた。
Airはもう絶版されていて、入手は不可能だろう。

「ロックオン・ストラトスーーーーーー!!」
キシャアアアアと、猛獣のようにうなりながら、ロックオンの姿を探す。
そして、ついに刹那のように物陰に隠れていたロックオンを発見する。
まずは、往復ビンタをお見舞いした後、底のあるブーツでグリグリと頭を踏んづけた。
「た、頼む、許してくれ!わざとじゃないんだ!」
「いいでしょう、許してあげましょう」
「本当か?」
ロックオンが顔をあげた。
「明日から二日間、冬コミが行われます。そこにいって、コードギアスのルルーシュ×C.C.本を買ってきてください。サークルの名前はメモします。買いそびれたら・・・・そうですねぇ、ミス・スメラギにロックオン総受けの本をかいてもらって、それをトレミーのクルー全てに読ませます。もちろん、18禁で内容は過激に激しく」
もはや、腐女子といっても間違いではない存在と化してしまったティエリアに慄きながら、ティエリアなら絶対に言葉と通りのことをしてのけるだろうとロックオンは恐怖した。
「ロックオン・ストラトス、誠心誠意をもって冬のコミケでティエリアの欲しい同人誌を買いあさります!」
敬礼までした。
それに、女王様の微笑を浮かべて、ティエリアが笑んだ。

本当に、この少女は、幼く無垢であるのに、時折ぞくっとするくらい妖艶で艶やかだ。
幼い時のほうがおおいが、ロックオンは氷の女王のように冷たい瞳をして、妖艶に微笑むティエリアも好きだった。

そして、ロックオンはトレミーを離れ、デュナメスで地球に降りると、冬コミにならんだ。
そして、約束通り、ティエリアがメモしたサークルの本を死守するかのように全部買った。

後日、お礼として、ティエリアがセーラー服をきて、ロックオンに抱きつき、キスをした。
ロックオンが、鼻血をたらして萌え死んだことはいうまでもない。