ターゲットが現れるだろうとおぼしきタイミング。 ファミリーが集う、老紳士もボスとして出席するパーティーの日。 いつもは顔を隠しているボスも、ファミリーたちの前には素顔を晒す。 俺だったら、この機会を狙う。ロックオンはそう思って、準備していた。 パーティの日、ボスはいつにもなく周囲に部下を連れ立っていた。 ロックオンは、廃ビルの屋上から、ターゲットが現れるのを待つ。ガードマンとしてあれだけ複数の部下を連れていれば、そうそう簡単に殺せるはずもない。 近所の建物はみな、ファミリーの人間がしらみつぶしに立っていて、潜むこともできないはず。 照準をボスの周りにあわせる。 遠くから狙えない場合、メイドなどに紛れて至近距離から狙ったほうが確実だ。殺した後、逃げられる可能性は少ないが。 「まったく、ボスも人が悪いよなぁ。よりによって飼い犬を売るなんて。まぁ、お前さんもボスに飼われてたことを後悔しろ」 人の気配はしなかった。 何事かと思って振り返ると、ファミリーの部下らしき男が一人。 同じく暗殺部門にいるいわゆる先輩みたいな存在。 「何を言ってる?」 「だから、言った通りだよ。ボスはお前を売ったんだ同盟のファミリーにな。前回お前が殺したターゲットは今回同盟となる、以前は敵対していたファミリーのボスの息子だった」 ペロリと男は舌で唇を舐めて、サンレンサーつきの銃を取り出す。 ロックオンは混乱していた。 あの人が、俺を売るはずなんて、そんなはずは・・・・。 銃が手にあたり、射撃銃がロックオンの手から弾きとんだ。 「まぁ、さ。死ぬ前にちょっと試させてくれよ」 「何をする!!」 ロックオンはまだ非力な16歳。大の大人の男に力で叶うはずなんてない。 頭を床に打ちつけて、軽い脳震盪を起こした。 圧し掛かってくる男は、無遠慮にロックオンの着ていた上着をシャツと一緒にナイフで引き裂く。 素肌が、ヒヤリと風を感じて身震いした。 「アイリッシュ系なんだって?肌白いな」 撫でてくる男の手の感触が気持ち悪くて、ロックオンは吐きそうになった。 めちゃくちゃに暴れてやった。男はそれを力でねじ伏せる。 「殺してやる!!」 「上等だって。俺、死姦もすきだから」 喉を締め上げられて、呼吸が止まる。大きく喘ぐが、酸素は入ってこない。 「ぐ・・・・うあ」 「いい顔するねぇ」 足音などなかった。そこにいるのかも分からなかった。 「あ?」 男は、喉笛をサバイバルナイフでパックリと切り裂かれて、血しぶきを出して絶命寸前の痙攣を起こす。 ロックオンのターゲットは、気だるそうにロックオンを・・・衣服を引き裂かれ、今にも犯されそうになっていた同年代の少年を見下ろして、首を傾げた。 血に濡れたサバイバルナイフをくわえる。 「14人目・・・・・ねぇ、君も死ぬ?」 ヴァーチャルエンジェルのようだと思った。慈悲の天使ジブリールが翼をなくして天から降りてきたのだと思った。 「天使?」 瞳が石榴色から、金色にかわる。瞳孔が縦長だった。 ああ、こいつは俺を殺しにきた死神だ・・・・。 「銃、借りるよ」 天使は、ロックオンの射撃用の銃で照準を定めると、ボスだけでなくファミリーの部下全員を殺していく。 「ミッションクリア。アールオファミリー、対象全滅、これより帰還する」 ジジっと、通信の音が聞こえる。 アールオファミリー。ロックオンを暗殺者に仕立てあげた、ファミリーの名前。 「ボス?殺したよ。生かしておいても価値なんてないだろう?わざと僕の情報を流したんだ、消えてもらわなければ。それより、プラン006で回収するはずの目標を発見した。このまま回収するか?」 通信はそれきり途絶える。 「ねぇ、歩ける?」 男の血にまみれたロックオンのところにしゃがみこんで、天使は首を傾げる。 「ターゲット・・・・俺の、ターゲッ・・・」 ロックオンは、そこで意識を失った。 そのまま、ロックオンは闇の中を漂う。 はっと目を覚ました時は、知らない場所の知らない部屋の知らない天井が視界に飛び込んできた。 ホームとして使っているアパートではない。 ロックオンは、自分が生きていることに安堵してから、周囲を見回す。 隣のベッドに、天使が眠っていた。 「おい、お前!」 「うーん、ジャボテンダーさんあと15分・・・・」 揺さぶり起こして頬を叩くと、天使はきっと睨んできた。 「体温が下がっていたから、素肌で暖めてあげた。嫌だったけど、上からの命令だったから」 「上?」 天使は、ロックオンの頬を叩き返して、立ち上がる。 長い紫紺の髪をした美しい少女。 「君は回収された。マイスター候補生として」 「はぁ!?」 「ヴェーダが推奨したのだから、僕はその命令に従うのみ。ロックオン・ストラトス・・・・・今日から、ここが君の住む場所だ」 「何をわけのわからないことを!」 それが、ロックオン・ストラトスとヴェーダアクセス機関ティエリア・アーデとの出会い。 混乱は、日にちが進むごとに消えていった。 ソレスタルビーイングの組織の一員として、ロックオンは迎え入れられたのだ。なんでも、超大型量算式コンピューターヴェーダというものが、ロックオン・ストラトスを推薦したのだという。 はじめは信じられなかった。 ガンダムだとか、紛争根絶だとか。 でも、はじめて実物のガンダムを見たとき、自分が立たされた位置を始めて実感した。 クリアになっていく意識。 とんでもないもんに巻き込まれたと思った。逃走を図ったのだって何度もあるが、必ず連れ戻された。 ヴェーダだかなんだか知らないけど、いきなりマイスター候補生だの人生きめられてたまるか! ロックオンは、CBの一員でありながらそうではなかった。 どこか宙に浮いた存在として、過ごしていく。 命を助けられたことに感謝はしたが、だからといってなぜこんな機関に拘束されなければいけないのかが分からなかった。 「ヴェーダの支持は絶対だ」 紫紺の髪の天使は、いつもそう言っていた。 脱走を防ぐために、相部屋にされた相手が少年だと分かるには数日ようした。 NEXT |