ロックオンはティエリアのナイトだ。 そんな噂は、なにもあながちなものではない。 人をこえた美しさを要する上に、中性でありながらセクサロイドとしても機能するティエリアを珍しがって、手を出そうする人間は、新しくやってきたマイスター候補くらいになった。 もう、研究員は手を出す者はいない。その裏にはリンダという研究者と、専門のドクターとなったドクター・モレノの姿があった。 「お疲れ様」 「お疲れ」 互いにバーチャル装置を使った仮想空間での訓練を終えて、一息つく。 「あの、よければお茶にしませんか」 ティエリアも大分変わった。 口調も柔らかくなり、笑顔を見せるようになった。 「ああ、そうするか」 二人の城である、相部屋は広くはなかったけど、ティエリアとロックオンが共に生活するには十分だった。 「シナモンティーを入れてみた。口にあうかわからないけど。あとカンパーニュを」 「おいしいよ」 カップを傾けるロックオンの隣に座って、ティエリアはジャボテンダーの縫いぐるみを抱きしめながらカップを傾ける。 中性だから、少年でも少女でもないのだけれど。 その体に男性器も女性器ももたぬせいで、どちらにもカテゴリされないティエリア。 少年であったティエリアは、もう少女といってもいいような空気をもっていた。 ロックオンが私服を買ってくれば、当然のようにそれを着こなすし、長い髪を結えば髪飾りを自分でつけた。 「なぁ。明日、外でデートしようか?」 「デート?」 きょとんとした顔で、ティエリアがカップから昇る湯気を見つめている。 ピチャン。 雫が落ちる。 「おい、どうした!」 「う〜〜!!」 泣き出したティエリアに、ロックオンが背中をさする。 「どこか痛いのか?」 「違う。胸が苦しい」 「そりゃ・・・・恋だな」 「恋?」 「そう。お前さんは俺に恋してるんだ」 「そうなの?」 自信満々にいったロックオンは、聞き返されてこけた。 「あのな、そこはそうなんですっていう場面だ」 「じゃあ、そうなんです」 「棒読みだ。もっと感情をこめて」 「そうなんです」 頬を赤らめて、上目遣いで見て、ジャボテンダーを抱きしめるティエリアに、ロックオンはノックダウンされた。 「やべ、かわいすぎ」 頭を撫でると、金色の小さな髪飾りに手がいく。 「これ、なんでいつもつけてるの?」 「お守り。僕を目覚めさせてくれた人が、僕にくれたの。僕が愛されるようにって」 「そっか」 実際に、ティエリアが愛されることはなかったけれど。 今だって、研究員はティエリアをただのバイオノイドとして扱い、愛しているとは言いがたい。だが、虐待や暴行などの最悪なケースはもうない。 愛に飢えた子羊だ。 そうだ、彼女は愛に飢えている。 「ねぇ、好きって胸が苦しくなるんだね」 「そうだな」 「ロックオンのことを考えると、胸が苦しくなる」 「それが恋、愛って感情だよ」 「愛・・・・・」 ティエリアは歌を口ずさむ。 「うわ、すげー綺麗な声」 「そう?」 「もっと歌って」 ティエリアがはCDでしか聞いたことのない遙かなる歌姫の歌を歌う。 それはオーロラのように、あるいは湧き上がる泉のように透明で。 フィフスティエリアとして、存在できて嬉しいとティエリアは想った。 ガンダムマイスターとして、パイロットになるのはNO7のセブンスティエリアであることが確定している。 五年もの長い間、彼と一緒に過ごせたのだから。 もう、後悔なんて何もない。 あとは、セブンスが目覚める日を待つだけ。 NEXT |