天使の鎖「エーテルイーター」







「北の王!その血は!!」
「治癒術士を呼べ!!」
「天界の治癒術士は全て、東の王と南の王の軍隊に加わっています!」
「なんだと!」

ロックオンは焦る。
手の中の軽い体重から、どんどん血が溢れていく。

「くそ、医者を呼べ!傷を診させる」
「は、只今」
呼ばれてきた医者は、貴族だった。
「・・・・・・・まさか、西の王の傷を治せともうされるか?」
「そうだ!王の命令だ!」
「黒い翼の不浄な者の体に触るくらいなら、私はこの場で自害いたします!」
護身用の短剣で、喉を切り裂いた医者は、他に呼ばれた医者に診られる羽目となった。
「誰でもいい!西の王の傷を治す医者はいないのか!」
どの医者も首を振る。黒い翼の不浄な体に触りたくないのだ。
「王の命令でもか!!」
「王の命令であっても、聞けません。我らにも信念があります。黒い翼の不浄な体に触れば、医者である能力が失われることも、王はご存知だろう!」
「くそ、こんな時に治癒術士が一人もいねーなんて!お前らもういい、とっとと去ね!」
吼える北の王の態度に平伏して、平民から貴族の医者まで全て帰っていった。
奴隷に、医者はいない。本来、奴隷は怪我や病気にかかると、治癒術士に治してもらう。医者に傷や怪我を診てもらうと、その医者は医者としての能力を本当に失ってしまうのだ。
奴隷の怪我や病気を診る治癒術士も限られている。
治癒術士のほとんどが貴族であるからだ。
そのため、奴隷の中から治癒術士が生まれることもある。
その奴隷の治癒術士も、軍隊に伴って出払っている。

「一体誰だ、天界の全ての治癒術士を軍隊につけたのは!」
「天王でございます」
女官の一人が傅いた。
「ライルか!くそったれええ!!!東の王と南の王で、大規模な戦争するには、そりゃ治癒術士はたくさんいないと死者が多くでるのは分かるが、一人くらい残していけよ、あのバカが!!」

腕の中のティエリアの怪我は深い。
ロックオンの王の衣装は、ティエリアの血で真っ赤に染まってしまった。

ふと、ティエリアが目をあける。
「ここはどこ?私は・・・・戦闘を続けなければ。死ぬまで戦闘を続けなければ。私は戦闘奴隷、私は・・・・」
ロックオンは、ティエリアの唇を自分の唇で塞いでしまった。
「・・・・・・・北の王?」
「死ぬな、ティエリア、死ぬな!!」
北の王の涙がティエリアの頬に滴り落ちる。

「ロックオン・・・・暖かい。二人で寝室へ」
ティエリアに言われた通り、誰にもつげず寝室に入る。ベッドに横たえると、ティエリアは傷の痛みで眉を顰める。そのベッドも真っ赤になっていく。
「どうすればいいんだ、ティエリア!!」
「あなたは・・・優しいな。私は黒の翼をもつのに、私の死を嘆いてくれるのか」
「ばかやろう、誰が死なせるか!好きなんだ!ずっと、愛していた!!」
「ロックオン・・・・すまない、あなたのエーテルを貰う」
「どうやって・・・・」
「天使の鎖を、握って」
ティエリアの右足にある、エーテルの金銀細工の華奢な鎖を握り締める。
「死ぬな、死ぬな!!」

「エーテル解放!我、汝の命を食らう。エーテルイーター始動」
ティエリアの背中の12枚の翼が、ロックオンを包み込む。翼が触れたところから、ロックオンのエーテルがティエリアに移動していく。
「45%起動、60%、70%・・・・80%。エーテルイーター解除」
黒い翼が、ロックオンから離れる。
ティエリアの傷は完全に完治していた。
ティエリアは意識を失っていた。傷が治ったといっても、体力と血液が戻るわけでもない。

「天使の鎖・・・・・はじめてみた。本当に世界にあるんだな・・・・なぁ、生きろ。生きてくれ、ティエリア。俺のエーテルなんざ全てやるから、生きてくれ!!」
白い頬を両手に挟んで、もう一度キスをする。

ティエリアは、目を閉じたまま涙を流した。

戦闘奴隷であった時代、このエーテルイーターで生き延びてきたのだ。悪魔にも、神から命を貰った僅かなエーテル力がある。そのエーテルを吸い尽くして、生き延びてきた。決して、どんなに深い死にそうな傷でも、同胞のエーテルを奪ったりしなかった。
普通の民のエーテル力を奪うことは、即ち生命力を奪うこと。
王となって怪我をしてからは、治癒術士に見てもらっていた。大規模な王として戦闘の時におう怪我も、全て治癒術士に。
だが、時折ティエリアは刹那のエーテルをとりいれた。
ティエリアは、天宮にきてからすぐに、黒色ガンにかかったのだ。
その事実を知っているのは、刹那のみ。
王のエーテルを取り入れることで、病気の進行は止まっている。黒色ガンは、治癒術士にも治せない不治の病。多くの黒の翼の民が黒色ガンで死んだ。
エーテルイーターという禁忌の能力がなければ、ティエリアも今頃リジェネのように死んでいたであろう。


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