花が散るとき







花が散る時。
それは、世界が壊れる時。
二人の世界が壊れる時。
花が散る。
蒼い薔薇が、花びらの雨のように散っていく。
二人の世界が壊れていく。
二人の愛が。


「なぁ・・・・アニュー、俺といて幸せか?」
「あら、どうして?」
「俺のこと、つまんねーって思わねぇ?」
「思わないわ」
アニューは、ライルが愛した女性。ライルが今まで愛してきたどの女性よりも清楚で、美しかった。
トレミーの中で、ロックオン・ストラトス・・・・兄のニール・ディランディの存在を唯一知らない女性。それがアニューだった。
仲間は、ロックオン・ストラトスといえばニール・ディランディをまずは思い浮かべる。比較されることを嫌っていたライルは、それが一番の苦痛だった。刹那もティエリアもアレルヤも、今のライルをロックオンと認めていたし、決してロックオンなら、ニールだったらこうだったなどと、比較するような発言はしなかったし、行動もとらなかった。
仲間としては、最高だと思う。
でも、どこかで比較されている気がして、ライルにはそれが苦痛で・・・・ロックオン・ストラトスの名を受け継いだのだから、兄と比較されることも受け入れなければならなかったし、実際もっと比較されるだろうと思っていたが、仲間は、とても相手を気遣うメンバーばかりで、ライルをニールと比較したりしなかった。
でも、ふと先代ロックオン、ニールの話になると、ライルはその話題から遠ざかる。
ティエリアが愛した、兄、ニール。
ライルも、ティエリアに惹かれた。
中性のティエリアは、美しいだけでなく、誰をも惹きつける魅力があった。
ティエリアは、でもいつでもニールを愛し、兄の影を探していた。ライルに重ねることはなるべくしなかったが、でも気づけばその視線が兄を探しているのだ。

二人で、トレミーのデッキから夕暮れを見つめていた。
「綺麗だな」
「ええ、綺麗ね」
紅色に染め上げられる空を見ながら、傾く太陽を見つめる。
夕焼け色に染め上げられたアニューは、とても綺麗だった。
「なぁ。キスしていい?」
アニューは、黙って頷いた。
二人は、唇を重ねる。
長い間、ずっとそうしていた。
アニューが、動かなくなったのだ。またかと思ったライルは、アニューを抱きしめる。
その瞳は、ティエリアや刹那のように金色に耀いていた。
アニューは、多分人間ではない。ティエリアと同じ存在なのかもしれない。
でも、もう遅いのだ。
もう、愛してしまった。
もう、戻れない。

「アニュー。お前は、俺が守るから。絶対に、世界の全てから守るから」
「あら・・・・あたし、何かしていた?」
アニューは首を傾げる。
自分の瞳が金色に輝いていたことも、思考も行動も止まっていたことも知らないアニュー。
「お前は、俺が守る」
「急にどうしたの、ライル」
ライルの腕の中で苦しそうにしているアニュー。


花が散る時。
それは、世界が壊れる時。
二人の世界が壊れる時。
花が散る。
蒼い薔薇が、花びらの雨のように散っていく。
二人の世界が壊れていく。
二人の愛が。


裏切ったアニューを、ライルは取り戻す。
「お前を・・・・もう一度、俺の女にするだけだ!!」
ライルは、アニューのコックピットへ続く機体をはがして、アニューの前にケルディムの手をさしのべる。
「ライル!!」
アニューは、涙を零して、ライルに近づこうとする。
まただ。
また、アニューの瞳が金色に変わった。
アニューの動きが止まった。
このまま、アニューに殺されてもいいと、ライルは思った。


花が散る時。
それは、世界が壊れる時。
二人の世界が壊れる時。
花が散る。
蒼い薔薇が、花びらの雨のように散っていく。
二人の世界が壊れていく。
二人の愛が。

刹那のダブルオーライザーが、アニューの乗った機体を切り裂いた。
ライルの目の前で、アニューは爆破音と共に粉々に砕け散って壊れていく。
「アニュー!!!!」
二人は金色の光の中で会話をした。
アニューは、イノベイターであったことを、後悔はしていなかった。
「あなたを愛せてよかった。私、ライル、あなたが大好きよ。あなたと出会えて良かった」
綺麗すぎる微笑を浮かべて、光となって世界に溶けていくアニュー。
ライルは絶叫する。
「アニューー!!!」

壊れていく。二人の愛が。二人の世界が。
今まで築き上げてきた二人の愛の軌跡が。
粉々になっていく。ああ。


「お前が、お前が!!!」
ライルは、唇を噛み切りながらも何度も刹那を殴る。
刹那は、黙って殴られ続ける。
ティエリアは、止めろといったものの、二人を止めない。

「アニュー!!うわああああああああああ!!」
ライルは泣き叫んだ。

守れなかった。
守るって約束したのに。お前がイノベイターでも良かったんだ。
愛し合えれば・・・・一緒にいれれば、それだけで良かったんだ。
守れなかった。アニュー。
アニュー。
苦しいよ。哀しいよ。虚しいよ。寂しいよ。
アニュー、アニュー、アニュー。

「アニュウうウウウウ!!!」

ライルは、絶叫して何度も壁を殴った。

愛していたのに。分かり合っていたのに。
叶わなかった二人の恋の結末。
でも、アニューはとても幸せそうだった。まるで、これがハッピーエンドであるかのように。
ライルと、俺と出会えて幸せだと・・・・・・・・・。
いつか、一緒にアイルランドにいっていつかそこで結婚式をして・・・たくさん未来を描いていたのに。

花が散る時。
それは、世界が壊れる時。
二人の世界が壊れる時。
花が散る。
蒼い薔薇が、花びらの雨のように散っていく。
二人の世界が壊れていく。
二人の愛が。

でも、二人は出会ったことに後悔はしない。
愛し合えたのだから。
二人は、種族をこえて愛し合った。

音を立てて壊れていくライルとアニューの愛は、哀しくそして痛すぎた。
まるで、ニールとティエリアの愛のように。
失った。
喪失をずっとかかえたまま、ライルは生きていくのだ。
アニューの分まで。