刹那は、マリナの部屋を訪れていた。 トレミーで一時的に保護されたマリナ。 与えられた部屋は、空き部屋で、ものはベッドとパソコン、TV以外ない。もともと、ベッドすらもなかったのを、運んできたのだ。 わざわざ、刹那と他のクルーが、マリナのために。 「マリナ。起きているか?」 「ええ、刹那」 マリナはすぐに、対応に出た。 刹那は魅力的な青年に成長した。昔は、真紅の瞳をぎらつかせた殺気を溢れさせた寡黙だった少年だったのに。 笑顔を、見せてくれるようになった。 その笑顔は、マリナは嫌いではなかった。 「やる」 すいと、刹那の手がマリナの前に押し付けられる。 その手の中にあるものを見て、マリナは逡巡した。 白い薔薇だった。5つほどの薔薇の小さな花束。 でも、素直に受け取る。 「ありがとう、刹那」 「こら、刹那、どこだ、刹那!また僕が世話していた花をかってに摘んだな!摘む前は了承を得てからにしろ!あの薔薇はロックオンが僕にくれたものだったんだぞ!!刹那!!!」 ティエリアが、珍しくかんかんに怒った様子でトレミーの廊下で大声を出していた。 「あ、この薔薇・・・・」 「いい。やる。じゃあな」 刹那は踵を返して、ティエリアの前に現れた。 「すまない。そんな大切な花だったとは・・・・・」 うなだれる刹那に、ティエリアは両手を組んで刹那を睨みあげたあと、大きくため息をついた。 「もういい。今度から気をつけろ。ブリーフィングルームにある花は、いくら遺伝子操作が施されているとはいえ、切り取られれば咲くまで時間がかかる」 刹那は、残していた一輪の薔薇の花を、ティエリアの髪に飾った。 「似合っている」 「君は!・・・・・・・・・全く」 マリナは、そんな二人の様子を見ていた。 誰にもでも優しい刹那。 マリナの心は苦しくなった。 もっと、刹那と近づきたい。 皇女は、刹那がくれた薔薇を一輪自分の髪に飾って見せた。 「似合うかしら・・・」 ぼーっとしている間に、刹那が戻ってきた。 「似合う」 真紅の瞳が、マリナを捕らえて離さない。 「ティエリアも似合うが・・・・マリナもよく似合う。お前には、白い花が似合っている」 触れるだけをキスをされて、マリナは刹那の胸に顔を埋めた。 ああ、この花咲くような時が永遠なら。 もっと長く続けば。 二人の別れは、すぐに迫っていた。 |